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国立大学独立行政法人化の諸問題: 学術政策・科学技術政策


1/14 総合科学技術会議はなぜ体性幹細胞研究を軽視するのだろうか?学術政策・科学技術政策
1/14 仏政府の改革案に抗議して科学者5千人が辞任表明学術政策・科学技術政策
12/27 実現性のない「ナノテク」へ科学技術予算20兆円の30%学術政策・科学技術政策
12/05 米国に来る科学技術者数が激減学術政策・科学技術政策
11/30 プロパテントによる産学連携破壊の懸念学術政策・科学技術政策
11/15 文科省、大学の質に関するマイナス情報を受験生に公開学術政策・科学技術政策
11/04 日本数学会声明:科学研究の国費助成のありかたについて学術政策・科学技術政策 , 競争的研究費 , 研究者から社会へ
10/22 SciCom News 第04号 研究ニュース版学術政策・科学技術政策
10/01 小柴さんが基礎科学の財団 ノーベル賞賞金などで学術政策・科学技術政策
8/31 メルマガ「NPOサイエンス・コミュニケーション・ニュース」創刊学術政策・科学技術政策
8/23 新首都圏ネット【分析・研究】科学技術政策の動向学術政策・科学技術政策 , 新首都圏ネットワーク , 大学財政
8/18 日本学術会議要望書「国立大学法人化と大学附置共同利用研究所等のあり方について」学術政策・科学技術政策

2004年01月14日

総合科学技術会議はなぜ体性幹細胞研究を軽視するのだろうか?

総合科学技術会議 生命倫理専門調査会 平成15年12月26日
ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方(中間報告書) p18

・・・・・他方、未分化のまま増殖可能な幹細胞は、成人の体内からも採取可能であり、これはヒト体性幹細胞と呼ばれる。ヒト体性幹細胞についても再生医療への応用が期待されているが、これは、一般には、一定の細胞組織に分化するが、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)のように多様な細胞に分化し得るものではないとされる。骨髄移植、皮膚移植や骨細胞の移植は、この体性幹細胞を利用したものである。近年、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)と同等の分化能力を持つ、多能性のヒト体性幹細胞の存在について報告があり、こちらについても再生医療への応用が期待されているが、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)以上に未知の要素が多く、現時点では、更なる基礎的な研究が必要な段階である。

しかし、体性幹細胞の方が再生医療にとって有望であるという見解は少なくないし、実績もあるように思える。倫理的な問題が少ない方法を敢えて軽視するのはなぜか。欧米が禁止していヒト胚性幹細胞研究を解禁すれば、この分野は日本の独壇場となることは確かだが、それは政府が重視する「国際社会」で尊敬される道ではなかろう。
<体性幹細胞>腎臓で確認 腎不全治療に光 帝京・早大グループ(毎日新聞)2002.10.14

ヘルシストニュース:クローン技術が流れを変えたES細胞による再生医療への夢:5. 体性幹細胞にも全能性が
青木 清氏:上智大学理工学部教授
入谷 明氏:近畿大学生物理工学部長 先端技術総合研究所長

青木:・・・・・この一連の研究からES細胞以外にも全能性を持つ細胞のあることがわかり、再生医療への新たな道が開けるのではないかと期待されています。これが幹細胞と呼ばれる細胞で、幹細胞には、全能性細胞であるES細胞と体性幹細胞の2種類があります。
体性幹細胞で最もよく知られているのは造血幹細胞で、これは増殖して自分自身の細胞を作ると同時に白血球、赤血球、血小板などに分化する能力を持っています。骨髄移植というのは、がん化してしまった白血球を除去して、新しい造血幹細胞を移植し、この細胞に正常な白血球を作ってもらおうという一種の再生医療です。
このような体性幹細胞には、造血幹細胞以外にも神経幹細胞、心筋幹細胞などのあることが知られていたのですが、これらの細胞は一定の方向にしか分化しないと考えられていたのです。ところが、神経幹細胞はいろいろな細胞に分化することが出来る全能性細胞であることがわかっただけでなく、他の幹細胞も全能性を持っていることが次々にわかってきたのです。患者さん自身の幹細胞をES細胞と同じように使えるのですから、受精卵を使う必要もありませんし、体細胞クローン技術を使う必要もないのですから倫理面でも問題ないことになります。
入谷:もし再生医療を考えるのなら体性幹細胞のほうがいいと思います。

http://www.cosmetic-medicine.jp/regene/ より

・・・・・幹細胞には大きく分けて、身体のあらゆる細胞になる能力を持っている胚性幹細胞(ES細胞という呼称で知られています)と、ある一定の領域の細胞になりうる体性幹細胞(組織性幹細胞)とがあります。

ES細胞の研究も非常に盛んに行われています。しかし、現時点ではまだES細胞の臨床応用には多くの問題点を残しています。一方、体性幹細胞は、あらゆる細胞に分化できるわけではありませんが、癌化などの心配が少なく、目的を絞れば非常に使いやすい細胞であるため、臨床応用が近いと考えられています。体性幹細胞には、造血性幹細胞、神経幹細胞や間葉系幹細胞などがあり、主に骨髄や臍帯血などから採取されますが、実は身体中の多くの組織に存在しています。脂肪や皮膚などから採取することも可能です。胎盤や臍帯、羊膜などから取る事も可能です。バンキングして将来使うことが可能です。・・・・・

仏政府の改革案に抗議して科学者5千人が辞任表明

asahi.com 仏の科学者反乱、5千人が辞任表明 政府の改革案に抗議

2003年12月27日

実現性のない「ナノテク」へ科学技術予算20兆円の30%

採算性の見込みがない研究は企業では担えないので国が投資をするのは当然だ、ということを言うひともいるだろうが、その理屈でいえば、採算性とは無関係の基盤研究の方が更に優先されるべきであろう。嘘も方便ではないか、実用性があると嘘を言って世論や政治家を騙して巨額の国家予算を科学技術に回すことで、学術界全体の底上げになるーーというのは嘘である。ごく一部の分野が研究費の洪水で溺れ、大多数の分野が研究費の干ばつで荒廃しつつあるーーまさに、学問世界の砂漠化を引き起こしつつある。

意見広告の会ニュース77より
3 「東京都 産業科学技術振興・基本指針」への都立大理学部教員のコメント

1)「ナノテク」といって、すぐにでも実現しそうな明るい雰囲気がありますが、実はものごとはそう単純ではありません。たしかに我々も公的資金を申請するときは、いかにも実現性がありそうに作文はしますが、それは単に可能性であって、実現性が極めて難しいものが多いことは現場の研究者が一番よく知っています。たとえば、話題性のあるーボン・ナノチューブですが100近い応用例が提案されてきましたが、市場原理を前提としてビジネスとして成立しそうなのは(専門的になりますが)非線形光学素子としての応用くらいではないかと考えています。全国紙に掲載された我々の研究も基礎物性物理以外のなにものでもないのです。

2)そう簡単に実現性がないことは企業がよく知っています。リスクの大きいテーマには思い切って投資していません。政府もこれをよく知っていて、科学技術基本計画(5年間で20兆円を越える公的資金の投入)の予算の約30%はナノテク関係かと思いますが、要するに大学とか公的研究機関のようにリスクを負担できるところに投資できる枠組みを作っているのです。これはもちろん、リスクを負いたくない財界の強い要請が背景にあります。

3)ましてや、リスクを負う余裕のない中小企業の再生のためにナノテクが役立つはずはありません。100の可能性のうち、数項目しかビジネスとして成立しないという現状では、中小企業は乗れる訳がありません。もし東京都が本気にナノテクを推進する気ならば、まずは市場原理を度外視して、基礎研究に投資する(対象は大学や公的研究機関でしょう)姿勢が必要でしょう。

4)これと対照的なのは半導体の計画です。これは国際的にロードマップ(ITRS: International Roadmap for semiconductor)ができていて、2020年頃までには、シリコンを用いたクロック周波数の理論限界15GHzを実現するための、緻密な計画ができています。これはインテルも東芝も富士通もほとんど同じ戦略で、莫大な投資がなされています。どこに困難があり、それを克服するにはどうするか、どれだけの時間がかかるかを見積もったかなり説得力のあるものです。当然といえば当然で各社が数百億単位で投資するからには実現性が問題なのです。

5)バイオテクノロジーは中間的な位置にあります。実現性の見えている場合もありますが、遺伝子が2カ所以上からんで発現する病気や異常などは、組み合わせの数が多すぎて、天文学的数字の実験が必要になってしまいます。製薬メーカなどが一定の投資をおこなっていますが、アメリカの政府の投資、アメリカ製薬会社の投資と比べれば微々たるものです。

6)H2ロケットが失敗するのは、大企業がいわゆる経験ある人間の熟練性にたよるローテクを軽視したからです。たとえば三菱重工業は、20年前にはあった精密な溶接技術をもはやもちあわせていません。ローテクは中小企業の得意分野でしたが、どんどん倒産し大田区などでは悲惨な状態です。

7)以上のような現状を無視した東京都の計画は、中小企業を活性化するどころか、単に箱物をつくる建設業者をうるおすだけになるでしょう。臨海地区にさすがにいまさら箱物を建設できなくなった業者を救うために、ほかの地区で建設をすすめるねらいが見え見えです。南大沢の新しい建物の建設もこのような流れの一環かと見えます。

2003年12月05日

米国に来る科学技術者数が激減

asahi.com 2003.12.4
米国の科学技術分野での優位性が危機に

National Science Boardの報告書によると、米国が外国人の科学者やエンジニアに頼る度合いはかつてなかったほど高くなっている。しかしこの分野で働くために米国に来る外国人の数は激減しており、それを補えるほど速いスピードでアメリカ人の人材は育っていない。・・・・・この傾向が続けば、科学技術分野で世界の先端を行くために必要な頭脳を確保できず、米国は中国やインドなどの新興経済と競争できなくなると報告書は警告している。・・・・・

理数科の教師養成や学生の支援、また米国人、特にこの分野でまだ活躍度の少ない女性やラテン系を励ますために、国はより多くの資金を投入すべきだと勧告している。

2003年11月30日

プロパテントによる産学連携破壊の懸念

経済セミナー2003年12月号 が、「研究開発投資と日本経済」という特集を組んでいるが、最近の知的財産政策におけるプロパテント(特許重視)が大学から産業界への技術移転の基盤を弱体化させる懸念が複数の著者によって指摘されている。

岡田羊祐(一橋大学大学院経済学研究科)
特許制度と研究開発・市場競争
経済セミナー2003年12月号、[特集]研究開発投資と日本経済 p33-37

・・・・・・ごく一部の技術分野では、特許権強化がイノベーションを活発にしているように見える。しかし、それは経済全体を通じて正しいとは限らない。特に、技術の累積的性質が発明の誘因にもたらす影響、ライセンス市場の機能や特長が技術の商用化にもたらす影響、特許訴訟をも考慮した社会的コストの程度に十分に留意する必要がある。従来であれば特許の対象とならなかったような大学等における基礎研究分野の成果が、公知(public domain)とはならなくなることの経済的帰結に十分な考慮を払うべきである。特に、多様性の利益の観点からも、排他的権利として基礎的技術が占有化されることの弊害に十分に注意すべきである。

鎗目雅(東京大学先端経済工学研究センター)
「産学連携とイノベーション」
経済セミナー2003年12月号、[特集]研究開発投資と日本経済 p29-32

・・・・・・このように先行するアメリカにおいては、過去20年間にわたる産学連携の経験に基づいて、詳細な実証研究がなされつつある。そこからはさまざまな示唆を得ることができるが、われわれにとって最も注目すべき結論は、大学における研究が産業界におけるイノベーションに与える影響として、科学論文のジャーナルを通じた知識の流れが最も重要であるということである。これは、大学の研究者は、自らの研究成果に関して積極的に特許を取得して企業へのライセンスを行うべきとする最近の主張とは一線を画すものである。・・・・・・

2003年11月15日

文科省、大学の質に関するマイナス情報を受験生に公開


YOMIURI ON-LINE 2003/11/14/14:43

・・・・・留意事項は従来、大学設置者の自治体や学校法人だけに伝えられていたが、来春開校する法科大学院(ロースクール)の事前情報が少ないこともあり、大学の質に関するマイナス情報も受験生らに伝える必要があると判断した。今月の認可分から実施する。・・・・・

2003年11月04日

日本数学会声明:科学研究の国費助成のありかたについて

数学通信第8卷第3号 p71-73 (2003.11)
日本数学会サイトhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/msj6/seimei/seimei.pdf
(総合科学技術会議、日本学術振興会に送付されたもの)

日本数学会声明 2003.9.24

科学研究の国費助成のありかたについて
――科学研究費補助金を中心に――

・・・日本数学会は,国が示した改革方針を否定するものではないが,いわゆるビッグ・プロジェクトを念頭においている提言を,すべての分野に杓子定規に適用するのは,危険があることを指摘したい。

数学という分野を例にとってみると,助成は主として文部省および学術振興会の科学研究費からなされてきた。そして従来の科学研究費制度は,小規模ではあるが多様な研究が並立する数学にとっては非常に有効なものであった。このたびの提言により,資金配分の方式が大きく変わって目立たない小規模研究に対する助成が軽視されるようなことが起れば,数学を含むさまざまな基本的研究分野が打撃を受け,長期的に見ると提言がかえってわが国の研究活力をそぐ可能性がある。このような事態を未然に防ぐため,実際に基本計画を運用するにあたっては,以下の四点に十分の配慮を払うべきであるとわれわれは考える。

1. 競争原理に乗りにくい分野の存在を無視しないこと
2. 過度の資金集中が起らないようにすること
3. 重点目標とされたプロジェクトに対する厳正な事後評価を行うこと
4. 諸学会との連携を図り,第一線の研究者が行うピア・レビュー評価システムを維持すること

以上である。・・・

全文:

数学通信第8卷第3号 p71-73 (2003.11)
日本数学会サイト にも掲載
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj6/seimei/seimei.pdf

科学研究の国費助成のありかたについて

――科学研究費補助金を中心に――

社団法人 日本数学会

「科学技術創造立国」の旗印のもと,国は1996年に科学技術基本法を整備し,科学技術基本計画では「科学技術の戦略的重点化」の項のトップとして基礎研究の推進をとりあげた。遅きに失したとはいえ,基礎研究の死活的重要性を国が明確に認めたことは,まことに喜ばしい。

さて上記基本計画においては,従来の科学技術助成は国費のばらまきだったのではないか,との批判に応える形で,国の助成のありかたに対する改革方針が打ち出された。その骨子は,

A)競争原理の導入,

および

B)重点的予算配分

の二点にある。日本数学会は,国が示した改革方針を否定するものではないが,いわゆるビッグ・プロジェクトを念頭においている提言を,すべての分野に杓子定規に適用するのは,危険があることを指摘したい。

数学という分野を例にとってみると,助成は主として文部省および学術振興会の科学研究費からなされてきた。そして従来の科学研究費制度は,小規模ではあるが多様な研究が並立する数学にとっては非常に有効なものであった。このたびの提言により,資金配分の方式が大きく変わって目立たない小規模研究に対する助成が軽視されるようなことが起れば,数学を含むさまざまな基本的研究分野が打撃を受け,長期的に見ると提言がかえってわが国の研究活力をそぐ可能性がある。このような事態を未然に防ぐため,実際に基本計画を運用するにあたっては,以下の四点に十分の配慮を払うべきであるとわれわれは考える。

1. 競争原理に乗りにくい分野の存在を無視しないこと

2. 過度の資金集中が起らないようにすること

3. 重点目標とされたプロジェクトに対する厳正な事後評価を行うこと

4. 諸学会との連携を図り,第一線の研究者が行うピア・レビュー評価システムを維持すること

以上である。

第一点について言うと,競争原理は確かに効率化のために有効な手段であるけれども,応用から遠い基礎分野に対しては厳格には適用しにくいし,してはならないことである。強いて原則を貫徹しようとすると,ともすれば短期的目標にとらわれて,真に独創的な研究が軽視されがちである。それどころか基礎分野への助成そのものが大幅に減ってしまい,結果的にはわが国の研究活力の長期的衰退を招くことさえ懸念される。

第二点であるが,国家財政が危機に瀕している現在,予算の傾斜配分を行うことは当然である。国家のプロジェクトであるかぎり,重点目標の選定に政策的判断が入ることもまた是認される。しかし一般論として,研究の将来性は,それが独創的であればあるほど,従前の実績から推し量ることは困難であり,優秀な研究計画が重点研究プロジェクトの選定から洩れてしまうことはしばしば起る。逆に極めて将来性が高いと判断したプロジェクトがさしたる成果をあげないでおわることも,また起こりうる。広汎な分野に係わる,いわゆるビッグ・プロジェクトならば,ある程度,研究の将来性,重要性について客観的判断がつくことが多いであろう。だが専門性や特殊性が高い研究である場合は,適切な判断はより難しくなる。なかんずく従事する研究者が少ない研究テーマに対する目配りは,ともすればおろそかになりがちであって,個別研究者がそれぞれ独自の小規模研究を行っている分野などは,過度の重点資金配分が実施されれば補助金の大幅な減少により壊滅的な打撃を受けるであろう。

重点目標からはずれた研究への小額の補助金は,一見ばらまきと見えるかもしれないし,個々の助成をとってみれば実際無駄となるものもないとはいえない。しかしスケール・メリットがどんな分野でも機能するとは限らず,分野によっては補助の金額の多寡よりも件数のほうが重要なことも多いのであって,小額補助を一律にばらまきと非難するのは誤りである。数学に対する科学研究費助成も,一件あたりの金額は大きいほうではないが,若手研究者の萌芽的研究をはじめとする多彩な研究を支えるのに不可欠の役割を果たしている。仮に一件あたりの金額を増やして,その分件数を減らしたとすると,数学にとっては大打撃であろう。またリスクが全然ない投資というものはそもそもありえないので,仮に所期の成果が得られない助成が数パーセント程度まじっていたとしても,それは多様性を高めることによる将来への保険と考えるべきである。無駄を完全に省こうとしてリスクをとらないのは,角を矯めて牛を殺すことになりかねない。以上が第二点である。

他方重要な研究として選定され重点的資金配分を受けたプロジェクトは,ある意味で他のプロジェクトを犠牲にしているわけであって,当然説明責任が伴う。責任をもって慎重にプロジェクト選考を行うのは当然のこととして,選考基準の当否,および実際に助成から得られた成果について,事後に厳正な点検評価を行うことは絶対に必要である。特に政策的判断に基づいて採択された計画の場合は,採択の経緯と責任までも含めた評価を行うべきである。これが上に挙げた第三点である。

第四点に移る。

4月21 日付けで発表された「競争的研究資金制度改革について(意見)」において,総合科学技術会議は,公正で透明性の高い評価システムを確立するために,申請に対する評価者(レフェリー)は,資金配分機関に配属されたプログラム・オフィサーが中心となって選任すること,としている。数学に対する補助の大部分を取り扱う日本学術振興会においても,同方針に則り「学術システム研究センター」を立ち上げることとなった。

さて上記意見書の14 ページ以下では,評価者プールの形成と評価者選任に諸学会が関与することをはっきりと否定し,また利害関係者を厳格に排除することを謳っている。しかし一見公正であるこの方針が,実は大きな危険をはらんでいることは指摘しておかなければならない。

数学や理論物理など,チームというものがそれほど重要ではない分野では,研究者としてデビューしたばかりの二十代の若者が重要な貢献をすることがめずらしくない。また長年にわたる努力の末に独力で大理論をつくりあげつつある研究者もいる。若手あるいは個性的研究者は地方の研究機関など孤立した環境にあることも多く,過去に積み上げた実績がまだないことと相まって,その研究能力を評価できる者は,元の指導者や共同研究をしたことがあるものなどかなり少数に限定されよう。このように判断材料が乏しい研究を審査する場合,利害関係者を排除するとの制約をクリアしつつ,少数のプログラムオフィサーが適切な評価者を探すことはかなりの難事である。

以上は単なる例に過ぎない。数学のように,一般には小さなまとまった分野のように考えられているところでも,非専門家にとっては意外なほど多種多様な研究がおこなわれているのであって,少数の人間がとても全部をカバーできるものではない。上記の「公正な方針」を字義通りに遵守すると,プログラムオフィサーにかかる負担は重きに過ぎるだけでなく,重要な研究が正しい評価を得られない公算が高まるであろう。

こういった危険を少しでも緩和するためには,第一線の多様な研究者による公平なピア・レビュー・システムと,千差万別の研究テーマのそれぞれに対して適切な評価者を選ぶことを可能にする情報ネットワークとが必須である。そしてそうした情報ネットワークの提供者として,各分野の学会が果たすべき責任と能力は決して失われていないと,われわれは考える。従来行われてきた日本学術振興会科学研究費補助金審査員の推薦,という形そのものにこだわるものではないが,適切な評価者を選定する上で,各学会から情報と人的資源の提供を受けられるようなシステムは,是非確保しておくべきであろう。そして日本数学会も,研究者団体の責務として,公平な研究評価システムを構築するための協力を惜しまないつもりである。

2003年10月22日

2003年10月01日

小柴さんが基礎科学の財団 ノーベル賞賞金などで

Yahoo!ニュース - 社会 - 共同通信

2003年08月31日

メルマガ「NPOサイエンス・コミュニケーション・ニュース」創刊

research ML より転載:


メルマガ「NPOサイエンス・コミュニケーション・ニュースのご案内(転載歓迎)

登録などは以下からお願いします。
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1)サイコム・ジャパンについて

 NPO「サイエンス・コミュニケーション(通称サイコム・ジャパン NPO法人化の
申請中です)は、社会と研究者の双方向コミュニケーションを促進すること、そのた
めに大学や研究者に関わる問題の研究や政策提言を行っていくこと、を目指していま
す。
 NPOサイコム・ジャパンでは、二つの方向性で活動を行います。一つは、日本の研
究体制を改善し、研究者が生き生きとその能力を発揮できるための情報収集、政策提
言活動、もう一つは、科学ジャーナリズムを中心とした科学コミュニケーションを推
進する活動です。両者は一見異なった活動のように見えますが、有機的に結び付き、
切っても切れない関係にあります。
 サイコム・ジャパンについて詳しくは公式サイトをごらんください
 http://scicom.jp/

2)メールマガジンについて

 サイエンス・コミュニケーション(サイコム)発行のメルマガは以下の二種類から
なります。現在のところ、登録して頂いた方には二種類ともお送りしております。

◆「サイコム・ニュース」

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あるかと思いますのでご了承下さい)。
 コラム、論説、連載記事、ブックガイドなどをお届けします。
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 科学技術や大学関連の速報、サイコムや各種団体からのプレスリリースや声明を配
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2003年08月23日

新首都圏ネット【分析・研究】科学技術政策の動向

基礎科学をめぐる危機

 わが国の基礎科学に総合科学技術会議 が大きな暗い影を落としている。

 これには「失われた10年」を通じて、民間の研究開発投資意欲が低下し、
国の産業政策に何をやってもだめという手詰まり感がでてきたことが背景にあ
る。そこで経済産業省などに主導され、科学技術が国の「一丁目一番地政策」
(最重点政策のこと)に格上げされることになった。これは一見科学重視政策
の様に見えるが、小泉行革の新自由主義路線に則って行われたため、副作用の
方が大きいという悲しむべき結果を生んでいる。国の「非常時」にあたり、大
学における研究に「総動員令」を出す一方で、お役に立てない基礎科学は退場
を命じられたからである。・・・・・

全文;http://www.shutoken-net.jp/web030822_9jimukyoku.html

2003年08月18日

日本学術会議要望書「国立大学法人化と大学附置共同利用研究所等のあり方について」

http://www.scj.go.jp/info/pdf/kohyo-18-k140-1.pdf
平成15年7月15日
本信送付先:文部科学大臣

本信写送付先:共同利用研究所等を置く国立大学長・日本学術振興会・国立大学協会会長・文部科学省所轄ならびに国立大学附置研究所長会議議長・共同利用研究所長懇談会座長

目次
1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.大学附置の共同利用研究所等の活動・・・・・・・・・・1
3.国立大学法人化に伴う課題・・・・・・・・・・・・・・2
4.提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
5.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
資料
大学附置の共同利用研究所等の共同利用の状況について・・6



要望
国立大学法人化と大学附置共同利用研究所等のあり方について

平成15年7月15日

日本学術会議

要旨

1.要望の名称
「国立大学法人化と大学附置共同利用研究所等のあり方について」

2.内容

(1)作成の背景

国立大学の法人化に伴い、大学法人の運営は、各大学法人の特色を強く出す
とともに、卓越した研究教育環境を整備し、特徴ある研究を進める方向に向か
うものと期待されており、各大学法人の独自色が強くなることが予想される。
一方、大学附置の共同利用研究所並びに全国共同利用施設及び全国共同利用
の情報処理関係施設(以下、共同利用研究所等という)では、各大学独自には
持てない特徴ある研究環境を整え、全国の研究者の利用に供し、優れた研究成
果を生み出し、わが国の大学における研究の推進に重要な役割を果たしてきた。
ところが、この全国の研究者による共同利用研究の理念と各大学独自性の理念
は相容れない側面もあり、共同利用研究の運営に支障をきたす恐れがある。こ
のため、全国共同利用研究のもつ貴重な機能が今後も損なわれることなく、よ
り発展的に運営できる制度のあり方の検討を行った。

(2)現状及び課題

大学附置の共同利用研究所という研究形態は、昭和28 年、日本学術会議の決
議等に基づき東京大学宇宙線観測所(現在の宇宙線研究所)及び京都大学・基
礎物理学研究所が設置されたことにより始まる。その後、様々な分野の研究を
進めるための全国共同利用の研究所及び研究施設が多くの大学に設置された。
さらに、より規模の大きな共同利用研究を進めるために大学共同利用機関が設
置された。これらの組織は、全国の研究者による活発な研究を支援するととも
に、各分野、各地域での優れた研究拠点を形成している。

また共同利用研究を進めるために、全国の研究者から選出された委員による運
営委員会が設けられ、研究の動向と研究者の意思が反映された運営がなされて
いる。

国立大学の法人化に伴い、大学の学部や大学附置の研究所等の新設・改廃も
含め、予算配分についても各大学の独自な運営に任されることになる。一方、
各大学の共同利用研究所等の運営には大学外部の研究者の意見も強く反映され
ており、その理念は各大学の理念と一致するとは限らない。このため、大学独
自の運営方針とは相容れない可能性もあることになり、わが国の研究基盤とし
て重要な役割を果たしてきた共同利用研究所等の運営に大きな影響が出ること
が懸念される。

(3)提言の内容

1)大学に設置される優れた研究拠点は、地域、国内、国際的な共同利用を行う
ことにより、わが国の研究基盤を整備していく上で重要な役割を果たすことが
できる。また、このような拠点を通じ、研究交流や人事交流が行われることに
より大学の研究・教育の活性化に大きな役割を果たすことができる。したがっ
て、大学と研究者コミュニティは共同利用研究所等が開かれた重要な研究拠点
であり、その成果の活用も含め、大学運営に積極的に活かす方策を追求する必
要がある。さらに、わが国の基礎研究拠点を整備する上で大学における研究・
教育を圧迫することなしに、共同利用研究の拠点を作ることのできる仕組みが
望まれる。

2)共同利用研究所等は、わが国における重要な研究基盤であり、民間等も含め
た全国の研究者の参加で推進する研究機関として位置づけられる必要がある。
したがって、大学の内部組織としての一般的な評価とは異なる観点を加味して
評価がなされる必要がある。このためには、個別大学の評価とは別に共同利用
研究所等を評価する方式を確立し、文部科学省は予算の交付においてその評価
を尊重することが望まれる。また、共同利用研究所等の新設・改廃を全国的立
場から検討する場が必要である。

3)国立大学法人の運営は、中期目標および中期計画に基づき運営される。各大
学法人は、特徴ある運営をする上で、予算・人員の配分について、これまでよ
り柔軟に対応し、独自の方針に沿って実行することになると考えられる。この
際、共同利用研究所等には、その独自の機能をふまえた配分がなされる必要が
ある。そのために、文部科学省は、共同利用研究所等の独自の機能・評価等に
基づいて措置された予算事項については、それを明示する必要がある。

4)共同利用研究所等は、大学附置である特色を生かし、大学教育と密接な関係
を保ちながら、研究者の育成に大きな役割を果たしてきた。この利点は今後も
継承される必要がある。

国立大学法人化と大学附置共同利用研究所等のあり方について
目次
1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.大学附置の共同利用研究所等の活動・・・・・・・・・・1
3.国立大学法人化に伴う課題・・・・・・・・・・・・・・2
4.提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
5.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
資料
大学附置の共同利用研究所等の共同利用の状況について・・6

1.はじめに

大学附置の共同利用研究所という研究形態は、昭和28 年、日本学術会議の決
議等に基づき、東京大学宇宙線観測所(現在の宇宙線研究所)及び京都大学・
基礎物理学研究所が設置されたことにより始まる。その後、多くの分野で共同
利用研究所並びに全国共同利用施設及び全国共同利用の情報処理関係施設(以
下、共同利用研究所等という)が設立された。これらの共同利用研究所等は特
徴ある研究環境を整備し、全国の研究者による優れた研究を支え、大学を中心
としたわが国の研究基盤と研究拠点として重要な役割を果たしている。

これらの多くの共同利用研究所等の設立及び共同利用研究所等への改組に当たっ
て、日本学術会議の勧告その他の活動が大きな役割を果たしてきた。また、文
部科学省においては、全国共同利用研究所制度創設の精神を尊重してその充実・
発展に努力し、基礎研究の振興に貢献してきた。共同利用研究所等においては、
全国の研究者から選出された委員による運営委員会が共同利用研究所の運営に
重要な役割を果たしている。現在、日本学術会議は8 研究所及び7 情報処理関
係施設に対して運営委員会委員の推薦を行っている。

このように、日本学術会議は共同利用研究所等の設立と運営に大きく関わって
きた。国立大学の法人化に当たり、大学共同利用研究の機能に影響が出ると思
われるので、課題を検討し、提言をまとめることとした。

2.大学附置の共同利用研究所等の活動

大学附置の共同利用研究所として東京大学宇宙線観測所(現在の宇宙線研究所)
京都大学基礎物理学研究所が設置されて以来、多くの共同利用研所等が設置さ
れてきた。そのうちのいくつかは大学共同利用機関として改組され、現在、17
の大学共同利用機関、19 の大学附置の共同利用研究所、21 の大学附置の全国
共同利用施設、7 の全国共同利用の情報処理関係施設が設置されている。この
うち、大学共同利用機関は法人化で4 つの大学共同利用研究機構として再編さ
れる。

昭和28 年に亀山直人日本学術会議会長より吉田茂内閣総理大臣へ提出された
申し入れの中の原子核研究所設立趣意書では、研究所の性格として、1)重点的
に巨大施設を持つ、2)全国的に共同利用の途を拓く、3)研究者の自主的運営
を可能にならしめるような組織を持つ、なお2) を実現するためには4)研究所
固有の定員を持つと共に、各大学と人事の交流を盛んにする、5)研究者の養成
の意味で各大学より大学院学生を引き受けて研究の指導をする、等の行われる
組織であることが望まれる、としている。これは、いわゆる「学術会議五原則」
といわれたものである。この趣旨にしたがって、共同利用研究所等はその運営
を全国の研究者から選出された外部及び内部委員による運営委員会に委ねてい
る。

共同利用研究所等が多くの学問分野で設置されるに伴い、今日では様々な形態
の共同利用が行われている。現在、共同利用研究所及び全国共同利用施設では、
1)大型設備の共同利用、2)卓越した実験設備を持つ実験室の共同利用、3)
貴重な資料の収集と閲覧、4)貴重な試料の収集と貸与、5)国際的な共同観測、
6)広い分野の研究者がある期間同一場所で同じ課題について研究するための
研究環境の共同利用、など各学問分野で特徴的な共同利用を行い、国内あるい
は国際的な研究拠点としての役割を果たしている。また、全国共同利用の情報
処理関係施設では大型計算機を多数の利用者に供している。

共同利用研究所等で行われている特徴的な共同利用活動と共同利用研究に携
わる研究者の数を調査した。調査範囲と期間及び結果を資料に示した。これに
よると、同一研究者が異なる課題で研究に従事しているので重複はあるが、お
よそ、共同利用研究所で10,200 人、全国共同利用施設で2,300 人、情報処理関
係施設で10,000 人の研究者が利用していることを示している。

共同利用研究所等は大学附置であるために、大学院教育と強く連携していて、
多くの大学院学生が教育・研究に携わっていて、研究者の人材育成に大きな役
割を果たしている。共同利用という研究交流の場での教育は、世界をリードす
る先端的研究の現場で教育を実施するため、高度な研究者・専門家の育成に効
果的である。また、多くの共同利用研究所や全国共同利用施設の特徴である学
際的研究環境は、新領域開拓に向けた人材養成に適している。

日本学術会議の制度上の発明といえるわが国独特の全国共同利用研究という研
究形態は、大型設備を利用する分野では重要な役割を果たすため、大学あるい
は大学共同利用機関以外の研究機関でも取り入れられていて、理化学研究所、
大型放射光研究施設SPring8、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所にお
ける大型研究設備の共同利用が進められていて、わが国の研究基盤の強化に重
要な役割を果たしている。

共同利用という研究形態は、研究拠点の形成に重要な役割を果たすことができ
るので、大学に設置されたあるいは設置される研究拠点に、今後、より一層取
り入れられることが望まれる。

3.国立大学法人化に伴う課題

国立大学の法人化は、各大学法人がそれぞれ特徴ある教育・研究を進めること
を強く促進する。一方、共同利用研究所等の目標や計画はわが国が必要とする
大学での基礎研究を全国的な立場で進める観点に立つために、各大学法人が進
む方向と必ずしも一致しない場合もあり得る。このため、共同利用研究所等は、
様々な形態の共同研究を通して、大学を中心とした基礎研究を進める上での大
学間にまたがる重要な研究基盤として新たな視点で位置づけられる必要がある。

現在、共同利用研究は大学関係だけでなく、大型設備を持った研究機関でも行
われていて、基礎研究の拠点を形成している。一方、共同利用研究所等は大学
を基盤とする基礎研究の分野で重要な役割を果たしている。わが国の基礎研究
の推進は、大学以外の機関も含めて、全国的な立場で検討されるべきであるか
ら、共同利用研究所等の新設・改廃の決定については、全国的な立場で検討・
評価する場が必要である。また、各大学法人がそれぞれ固有の特徴ある研究環
境を整備していく状況の中では、大学に特徴的な基礎研究を進めるべき観点か
ら、この全国的視点で検討・評価にあたった主体が大学法人へ十分説明しなけ
ればならない。

国立大学の法人化を契機に、大学法人の運営は、外部評価により大きく影響さ
れる。共同利用研究所等の評価は、わが国の大学における基礎研究を進める立
場で行われる必要があり、各大学に対する個別評価の枠内で行われるのは、必
ずしも適当ではない。わが国の基礎研究を進める立場から、全国的な観点を含
めた評価を行う評価方式の確立が望まれる。

法人化後は、大学の運営は中期目標、中期計画に沿って行われる。これらの中
期目標や中期計画は各大学法人がそれぞれ特徴を出せるように各大学法人で案
を作り、それを基に文部科学省が作定あるいは認可することになる。法人化に
伴い、大学法人の学部、研究所等は省令に記載されなくなり、学部、研究所等
の新設・改廃も大学法人の意向で案が作られることになる。各大学法人が個性
ある研究・教育を進めるために、このような裁量権が拡大することは望ましい
ことであり、文部科学省が認可するにあたり、各大学法人の意向を十分尊重す
ることが重要である。

しかしながら、各大学法人がそれぞれの特徴を出すべく、中期目標・中期計画
を作成する際に、全国共同利用を行っている研究所等では、全国の研究者の意
見を取り入れた目標・計画を作成することになるので、各大学法人がこの点を
配慮しないと全国共同利用研究の運営に支障をきたすことになる。また、文部
科学省においても、共同利用研究所等の目標・計画の作定・認可に当たっては、
全国的に研究基盤を確保する観点からの配慮が必要である。

各大学の優れた研究拠点は、共同利用という研究形態を取り入れることにより、
地域、国内、国際的研究拠点として、わが国の基礎研究基盤の整備に大きな役
割を果たすことができる。また、これらの研究拠点を通じて、研究交流や人事
交流を図ることができ、若手研究者が国内、国際的な研究者との交流を通じて
大いに羽ばたく機会を持つことにつながり、各大学の研究・教育にも重要な役
割を果たすことが可能になる。このようなわが国の研究基盤の整備につながる
共同利用の研究形態を活用することは重要で、大学の既存の研究・教育を圧迫
することなしに、形作ることのできる仕組みが必要である。

大学法人の運営は、中期目標・中期計画に基づいた運営費交付金、施設費補助
金あるいは人員計画を基礎になされる。実際の毎年度の学内における予算・人
員の配分は、各大学法人にとって最も望ましい研究・教育環境を整えるべく配
分が行われると考えられる。これらの予算・人員に関して、各大学法人へ一括
して配分される場合、共同利用研究所等へ配分に関する予算・人員については
わが国の研究基盤を強化する立場から各大学で配慮する必要があるが、各大学
法人では難しい判断を迫られる。このため、全国的な立場に立った評価に基づ
いて共同利用研究所等に措置された予算・人員については、明示される必要が
ある。

4.提言

1)大学に設置される優れた研究拠点は、地域、国内、国際的な共同利用を行
うことにより、わが国の研究基盤を整備していく上で重要な役割を果たすこと
ができる。また、このような拠点を通じ、研究交流や人事交流が行われること
により大学の研究・教育の活性化に大きな役割を果たすことができる。したがっ
て、大学と研究者コミュニティは共同利用研究所等が開かれた重要な研究拠点
であり、その成果の活用も含めて大学運営に積極的に活かす方策を追求する必
要がある。さらに、わが国の基礎研究拠点を整備する上で大学における研究・
教育を圧迫することなしに、共同利用研究の拠点を作ることのできる仕組みが
望まれる。

2)共同利用研究所等は、わが国における重要な研究基盤であり、民間等も含
めた全国の研究者の参加で推進する研究機関として位置づけられる必要がある。
したがって、大学の内部組織としての一般的な評価とは異なる観点を加味して
評価がなされる必要がある。このためには、個別大学の評価とは別に共同利用
研究所等を評価する方式を確立し、文部科学省は予算の交付においてその評価
を尊重することが望まれる。また、共同利用研究所等の新設・改廃を全国的立
場から検討する場が必要である。

3)国立大学法人の運営は、中期目標および中期計画に基づき運営される。各
大学法人は、特徴ある運営をする上で、予算・人員の配分について、これまで
より柔軟に対応し、独自の方針に沿って実行することになると考えられる。こ
の際、共同利用研究所等には、その独自の機能をふまえた配分がなされる必要
がある。そのために、文部科学省は、共同利用研究所等の独自の機能・評価等
に基づいて措置された予算事項については、それを明示する必要がある。

4)共同利用研究所等は、大学附置である特色を生かし、大学教育と密接な関
係を保ちながら、研究者の育成に大きな役割を果たしてきた。この利点は今後
も継承される必要がある。

5.おわりに

全国共同利用という研究形態は、各大学に散在する意欲ある研究者の研究基盤
として、また大学を基盤として基礎研究を推進する強力な拠点形成の方式とし
て大きな成果を挙げてきた。そしてその機能と役割は研究の高度化、国際化、
などの情勢の中で時代の要請に応えるためにも改善してますます発展させてい
くべきものである。

わが国で“発明され”、創意工夫で育まれてきたこの研究方式は、海外にも影
響を与えている制度であり、また応用技術の開発においても可能性をもった制
度である。将来の基盤的技術の開発に当たり、直ぐに採算が取れず民間を主体
とした開発研究が進められない段階で、民間、国立研究所、大学などを問わず、
全国の研究者の利用を目的とした研究機関の存在は新たに検討するに値する。
このような機関は省庁の枠を超えた場で検討される必要がある。

こうした大学付置の共同利用研究所等の貴重な成果と経験が、国立大学法人化
による制度改変のあおりを受けて、その重要な機能が損なわれることがないよ
う切に望むものである。

資料:大学附置の共同利用研究所等の共同利用の状況について

大学附置の共同利用研究所等の共同利用の状況について、文部科学省の国立大
学附置研究所一覧、研究施設一覧、研究支援施設一覧で全国共同利用として定
めている共同利用附置研究所、全国共同利用施設、全国共同利用の情報処理関
係施設に対して、次頁に示した別紙を用いて平成15年5月14日から6月16 日ま
での間に共同利用の状況の調査を行った。調査を行った全ての機関から回答を
得た。その回答をまとめて、共同利用の形態について表1(共同利用研究所)
表2(全国共同利用施設)表3(情報処理関係施設)に示した。また、共同利用
で採択した課題数及び参加研究者数について表4(共同利用研究所)表6(全国
共同利用施設)表8(情報処理関係施設)に示した。採択した研究集会の数に
ついて表5(共同利用研究所)表7(全国共同利用施設)に示した。

なお、各研究機関が国立大学法人化後の共同利用研究について懸念する事項
として寄せられた意見の主なものは、

・個別大学の枠を超えた全国共同利用や全国共同研究を評価するシステムが確
立していない。

・個別の大学法人の枠を超える研究拠点、中型・大型研究設備をどのように整
備していくかの仕組みが確立されていない。

・全国共同利用研究がわが国の学術の発展に大きな役割を果たしてきたと思わ
れるので将来に向けて法的存在根拠を与えるシステムが必要である。

・共同利用に供する大型研究設備の更新や運用に関する経費の確保についての
見通しが立っていない。

・共同利用研究に対する評価システムが確立していないと、研究業績の中でも、
共同利用支援業務に対する大学当局の理解が得られず、資金的・人的サポー
トが困難となると考えられる。

・共同利用者の立場から、自ら所属する大学の研究業績と直結しない、大型・
共同の基礎科学研究へ参画することが困難になる事態が考えられる。

など、1)評価システムに関すること、2)研究拠点を整備する仕組みの確立、
3) 全国共同利用研究に対する位置づけ、4)共同利用研究を支える予算の仕
組みの確立、5)共同利用研における研究業績の考え方、などについて多くの
意見が共同研究所等から寄せられた。

なお、今回、調査を行った施設以外にも全国共同利用を行っている大学附置
の研究機関・施設が存在し、活発な研究活動を行っていることを付記する。