2003年12月27日

実現性のない「ナノテク」へ科学技術予算20兆円の30%

採算性の見込みがない研究は企業では担えないので国が投資をするのは当然だ、ということを言うひともいるだろうが、その理屈でいえば、採算性とは無関係の基盤研究の方が更に優先されるべきであろう。嘘も方便ではないか、実用性があると嘘を言って世論や政治家を騙して巨額の国家予算を科学技術に回すことで、学術界全体の底上げになるーーというのは嘘である。ごく一部の分野が研究費の洪水で溺れ、大多数の分野が研究費の干ばつで荒廃しつつあるーーまさに、学問世界の砂漠化を引き起こしつつある。

意見広告の会ニュース77より
3 「東京都 産業科学技術振興・基本指針」への都立大理学部教員のコメント

1)「ナノテク」といって、すぐにでも実現しそうな明るい雰囲気がありますが、実はものごとはそう単純ではありません。たしかに我々も公的資金を申請するときは、いかにも実現性がありそうに作文はしますが、それは単に可能性であって、実現性が極めて難しいものが多いことは現場の研究者が一番よく知っています。たとえば、話題性のあるーボン・ナノチューブですが100近い応用例が提案されてきましたが、市場原理を前提としてビジネスとして成立しそうなのは(専門的になりますが)非線形光学素子としての応用くらいではないかと考えています。全国紙に掲載された我々の研究も基礎物性物理以外のなにものでもないのです。

2)そう簡単に実現性がないことは企業がよく知っています。リスクの大きいテーマには思い切って投資していません。政府もこれをよく知っていて、科学技術基本計画(5年間で20兆円を越える公的資金の投入)の予算の約30%はナノテク関係かと思いますが、要するに大学とか公的研究機関のようにリスクを負担できるところに投資できる枠組みを作っているのです。これはもちろん、リスクを負いたくない財界の強い要請が背景にあります。

3)ましてや、リスクを負う余裕のない中小企業の再生のためにナノテクが役立つはずはありません。100の可能性のうち、数項目しかビジネスとして成立しないという現状では、中小企業は乗れる訳がありません。もし東京都が本気にナノテクを推進する気ならば、まずは市場原理を度外視して、基礎研究に投資する(対象は大学や公的研究機関でしょう)姿勢が必要でしょう。

4)これと対照的なのは半導体の計画です。これは国際的にロードマップ(ITRS: International Roadmap for semiconductor)ができていて、2020年頃までには、シリコンを用いたクロック周波数の理論限界15GHzを実現するための、緻密な計画ができています。これはインテルも東芝も富士通もほとんど同じ戦略で、莫大な投資がなされています。どこに困難があり、それを克服するにはどうするか、どれだけの時間がかかるかを見積もったかなり説得力のあるものです。当然といえば当然で各社が数百億単位で投資するからには実現性が問題なのです。

5)バイオテクノロジーは中間的な位置にあります。実現性の見えている場合もありますが、遺伝子が2カ所以上からんで発現する病気や異常などは、組み合わせの数が多すぎて、天文学的数字の実験が必要になってしまいます。製薬メーカなどが一定の投資をおこなっていますが、アメリカの政府の投資、アメリカ製薬会社の投資と比べれば微々たるものです。

6)H2ロケットが失敗するのは、大企業がいわゆる経験ある人間の熟練性にたよるローテクを軽視したからです。たとえば三菱重工業は、20年前にはあった精密な溶接技術をもはやもちあわせていません。ローテクは中小企業の得意分野でしたが、どんどん倒産し大田区などでは悲惨な状態です。

7)以上のような現状を無視した東京都の計画は、中小企業を活性化するどころか、単に箱物をつくる建設業者をうるおすだけになるでしょう。臨海地区にさすがにいまさら箱物を建設できなくなった業者を救うために、ほかの地区で建設をすすめるねらいが見え見えです。南大沢の新しい建物の建設もこのような流れの一環かと見えます。

tjst |12月27日 |URL:http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000414.html |学術政策・科学技術政策
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