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                          2001年5月18日

          国立大学の独法化・公営化・民営化政策のもたらすもの

 
                      独立行政法人化問題を考える北大ネットワーク


 日本社会のみなさまへ

  政府が進めている国立大学独立行政法人化・地方移管化・民営化政策の実質
的内容は、高等教育予算枠の中で財政支出が法的にほぼ義務付けられている部
分(人件費等)をなくすことにあります。この政策は1石3鳥の効果があると
期待されています:
(1)高等教育予算を自由自在に削減できようになり、財政赤字解消の一助と
なる、(2)安定した高等教育予算を断つことにより国立大学に生き残り競争
を発生させ大学を活性化できるようになる、(3)予算配分を通じて大学を制
御できるようになる。
 しかし、誰にとって1石3鳥なのでしょうか。長岡藩大参事小林虎三郎は財
政逼迫する中で受け取った救援の米俵百俵を何に使ったのでしょうか(*1)。国
立大学予算は過去20年間で実質半額になりました。このような状況で正常に
機能し続ける組織が一体あるのでしょうか。創造性を必要とする教育・研究の
ような営みにおいて「低コスト・高品質」は有りうるのでしょうか。
 政府の施策が長期的に見て日本社会にとって一体どういう性質のものである
かを、是非、冷静に判断して頂きたい、と心からお願いいたします。

(*1) http://www.city.nagaoka.niigata.jp/d010/d010b050/pg1-3-1.html



  国会議員 各位

  5月11日の国会での小泉首相答弁を受け、文部科学省は国立大学民営化・
地方移管化の検討を開始したと報ぜられました。独立行政法人化・地方移管化・
民営化等の功罪を現時点で見定めることは容易ではないかも知れませんが、同
様の政策を実施したニュージーランドの実地調査報告(*2)を見ると、日本の学
術研究・高等教育体制への影響のマイナス面の深さ広がりは想像を絶するもの
となることが予想されます。
 通常に私達が考えることができないような長期的展望を持って日本社会の舵
取りをすることが国会議員の皆さまの使命ではないでしょうか。そのことを思
い出して頂くことを強く要望します。


(*2) 独立行政法人国立環境研究所長 大井 玄/東京大学教授 大塚 柳太郎
「 ニュ−ジ−ランドの行政改革と高等教育および科学研究への影響予備調査
報告」http://www.ac-net.org/doc/00c/nz.shtml



  文部科学省 殿

 大学所管省として、貴省がどういう大学政策を持っておられるのか私たち国
立大学構成員にはわかりません。独立行政法人化に率先して反対していた貴省
が、反対していた理由が何も変らない中で、何の説明もなく独立行政法人化容
認に方針転換しました。独立行政法人化は独立採算ではないと言って独立行政
法人化を勧めていた貴省は、今度は民営化の検討をはじめられました。日本社
会の高等教育全体を所管する省として、責任ある一貫した態度を政府部内で取
ることを要望します。



 国立大学協会 殿

  昨年来、国立大学協会は、設置形態検討特別委員会において法人化の諸問題
に検討を重ね5月21日の委員会において中間報告案を定め、6月の総会にお
いて承認する予定であると聞きました。しかし、民営化・地方移管化等の方針
が浮上した今、議事要旨等に見られるような、長期的展望を軽視した技術的議
論だけでは、新しい事態に対処できるはずはありません。
  昨年5月26日の文部大臣あいさつの前提は変化しました。当該挨拶に応え
た昨年6月の国立大学協会合意は無効となったことを認識し、国立大学の利益
を優先するその場凌ぎの戦術だけでは最早解決できない事態に至ったことを認
め、調査検討会議から引き上げ、公立・私立大学と共に、日本社会における大
学構想について、日本社会と直接対話することをはじめなければなりません。



  国立大学の教職員・学生・院生のみなさま。

  期待・楽観・悲観・怖れ・諦念・無関心などの結果としての沈黙は、法人化
是認の意思表示として解釈され兼ねません。種々の見方・考え方・立場につい
て教職員・院生・学生等が自分の考えを機会ある毎に外に出すことが今なによ
りも必要なことです。事態解決のために今失われる研究時間は、時間劣化を防
ぐことにより何倍にもなって戻ってくるでしょう。


 産業界・財界関係者 各位

 「科学技術」的営為は、現実を変える知的活動として未開時代から動物的智
慧の進化したものとして存在していました。HGウェルズの「タイムマシン」
で描かれている、地上人を養殖し食料としながら機械を操って生き続ける地底
人のように人類が落ちぶれても、科学技術は存続し続けるでしょう。
  これに対し、学問的活動が長期間持続した文明は多くはありません。日本は
聖徳太子以来、学問的活動を尊重する風土を維持してきました。19世紀後半
に西洋の「科学技術」を輸入するときも、学問総体を真剣に学ぼうとしたのは
そういう風土があってのことです。そして、それがあったからこそ、わずか一
世紀の間に科学技術において欧米に太刀打ちできるまでになったのです。しか
し、今、皆さまは「国際競争」に理性を失い、科学技術以外の学問を切り捨て
ようとしておられます。
  露骨な学問切り捨てを謳った次期科学技術基本計画は、学術活動の有機的統
一性に関する無理解に基づいています。学問全体から切り離された科学技術は
硬化し地底人の野蛮な科学技術に衰退していくことでしょう。まだ遅くはあり
ません。再考を要望します。


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