2001.1.19

日経新聞2001年1月15日朝刊

大学の競争促進へ基金

総合科学技術会議が創設検討


研究成果で配分 施設拡充、5年間で1兆円

六日発足した総合科学技術会議(議長・森喜朗首相)は、大学などの研究施設 を拡充するため大規模な「研究環境整備基金」(仮称)を創設する検討に乗り 出す。資金は各大学一律に配分するのではなく、研究活動の活発さに応じて割 り当てる方式を導入、各大学が競争して優秀な研究者を採用するよう誘導する 効果も持たせる。来年度からの第二期科学技術基本計画の目玉施策とし、五年 間で1兆円を超える資金を同基金を通じ配分したい考えだ。

新設する基金は一般会計を財源とし、大学の研究活動の実績に応じて毎年配分 額を決める。具体的には、研究テーマを公募する競争的研究資金をどれだけ獲 得したかに応じで、研究者が所属する機関に施設整備費を支出する。国立大、 私立大のほか公的研究機関なども対象となる。これにより、多額の研究費を獲 得できる研究者を抱える大学、研究機関の施設整備が優先的に進む。備設整備 というインセンティブによって、各大学が国内外から優秀な研究者を迎え、大 学同士の競争を通じて研究の水準が底上げされることを狙う。井村氏は「優秀 な研究者を確保するために投資するという考え方を日本の大学に根付かせたい」 としている。

従来は大学研究室の面積は教授の既得権になっており、多くの研究スタッフを 抱えて成果を上げているところほど、施設が過密で研究環境が悪いという事態 も生じている。

第二期科学技術基本毛一区案は1100万平方メ−トルの研究施設拡充を打ち 出しており、このためには約3兆円の資金が必要とみられている。

千億円規模の現行の国立大学施設整備費などで賄うのが難しいため、総合料学 技術会議は今回の基金構想を軸に新しい枠組みを設ける方向で検討を進める。


総合科学技術会議の当面の主要課題。

  • 第2期科学技術基本計画の政策
  • 日本学術会護の位置付けを検討
  • ポストゲノム研究の基本方針作り
  • ナノテクノロジー研究の基本方針作成
  • ヒト胚(はい)の取り扱い指針作り
  • 胚性幹細胞(ES細胞)の研究指針作り

  • 総合科学技術会議 トッブダウン型に

    総合科学技術会議が週内に第一回会議を開いて始動する。国の科学技術政策を 総合調整することを目的に、同会議には研究関連の予算を実質的に各省庁に配 分する権限や、大学や民間企業出身者を合む事務局が与えられた。機動的な科 学技術政策の運営に向け、議長である首相専任の科学技術政策担当相の指導力 が問われることになる。中核メンバーとなる七人の有識者議員には昨年ノ−ベ ル賞を受賞した白川英樹筑波大名誉教授や桑原洋・元日立製作所副会長ら各界 の実力者を起用。事務局は民間企業から十二人、大学・研究機関20人の移籍 者を合む75人で構成、幅広い観点から政策立案・遂行する体制を整えた。

    前身の科学技術会議は事務局が科学技術庁に置かれ、各省庁が立案した科学技 術関連政策・予算を追認。これに対し、内閣府に置かれる総合科学技術会議は、 関連予算や人材の配分、その根拠となる研究評価を所管することを明文化。細 心の科学技術や欧米の政策動向を毎月首相に報告して指示を仰ぐなど、トップ ダウン型の政策決定を目指す。技術革新がめざましい分野に研究資源を機動的 に投入し、競争力を確保することが総合科学技術会議の重要な任務となる。


    企業助成に成果主義を産業界代表の桑原洋議員に聞く

    総合科学技術会議の有識者議員として産業界から起用された桑原洋氏(元日立 製作所副会長)に、科学技術振興に向けた官民協力のあり方を聞いた。

    Q:産業界の代表として何を訴えていくのか。

    「これまで、国が研究開発活動に資金を投人しても必ずしも期待通りの成果を 得られなかった。税金を研究開発活動に投じることで産業が発展し、企業の利 益が伸び、税収増につながる。こんな好循環を目指したい」

    Q:効果が上がらなかった原因は何か。

    「産官学および政冶のコミュニケ−ション不足が一因だ。官僚組織の縦割りの 弊害もあった」

    Q:国側に問題があった?

    税金をもらって研究開発していることへの責任感が乏しい。企業の研究活動を 支援する際、成果が出たかどうにかによって資金配分を見直す制度を導入する。 この評価制度の拡充を通じ、国と民間で共同作業をやっていきたい」

    「科学技術政策の重点分野に指定したナノテクノロジー(超微細技術)でも医 療機器、半導体といった個別の製品ごとに世界一を握る戦略を官民で具体的に 描くべきだ」

    Q:情報技術(IT)振興..

    「「国はITの強化策として電子政府の計画を打ちだし、戸籍情報などの電子 化を進めているが、官民がばらばらに動くのではなく、官民がネットで結ばれ る eソサエティー(社会)を目指すべきだ。そうした基盤がができれば電子 商取引も普及しやすい。企業はそれぞれネット調達市場の創設に動き始めてい るが個々の対応では限界がある。最低限必要な部分では日立も東芝も三菱電機 も協力して進めればいい」。