2004年05月23日

再任拒否の処分性を認めた韓国大法院の判決

韓国大法院2004年4月22日宣告トウ7735「教員再任用拒否処分取消」について、神戸大学大学院法学研究科の阿部泰隆教授が解説。京大井上教授再任拒否事件にも言及。

韓国大法院2004年4月22日宣告トウ7735 教員再任用拒否処分取消

主文:原審判決を破棄し、事件をソウル高等裁判所に差し戻す

理由:「旧教育公務員法(1999・1・29の法律5717号で改正される前のもの)第11条第3項、旧公務員任用令(2001年12月31日の大統領令第17470で改正される前のもの)第5条の2第2項が国・公立大学に勤務する助教授は4年以内の任期を定めて任用することを規定することによって原則的に定年が保障される教授等の場合と差をおいているのは、任期が満了したとき教員としての資質と能力を再度検証して任用することができるようにすることによって定年制の弊害を補完しようとするところにその趣旨があるため、任期を定めて任用された助教授はその任期の満了で大学教員としての身分関係が終了するというべきである。

しかし、大学の自律性及び教員地位法定主義に関する憲法規定とその精神に照らし学問研究の主体である大学教員の身分は、任期制で任用された教員の場合も、一定の範囲内で保障される必要があり、たとえ関係法令に任用期間が満了した教員に対する再任用の義務や手続き及び要件等に関して何ら規定をおいていなかったといえども、1981年以来、教育部長官は、任期制で任用された教員の再任用審査方法、研究実績の範囲と認定基準、審査委員選定能力等を詳細に規定した人事管理指針を各大学に示達することにより再任用審査に基準を設けており、これに従って任用期間が満了した教員らは人事管理指針と各大学の規程による審査基準によって再任用されてきており、その他任期制で任用された教員の再任用に関する実態及び社会的認識等、記録に示された種々な事情を総合すれば、任期制で任用され、任期が満了した国・公立大学の助教授は教員としての資質と能力に関して、合理的な基準による公正な審査を受けその基準に適合すれば特別の事情がないかぎり再任用されるとの期待を持って再任用いかんについて合理的な基準による公正な審査を要求すべき法規上又は条理上の申請権をもつものとすべきであり、任命権者が任期が満了した助教授に対して再任用を拒否する趣旨で行った任期満了の通知は上記のような大学教員の法律関係に影響を与えるものであり行政訴訟の対象となる処分に該当するというべきである。

大法院判決が、任期制にもかかわらず、再任拒否を処分と認めた理由は、大学の自律性、教員地位法定主義に関する憲法規定等に照らし、学問研究の主体である大学教員の身分は、任期制で任用された教員といえども、一定の範囲内で保障される必要があるという点にあり、学問の自由を害しないことは明らかとする京都地裁判決との違いに愕然とする。

また、この判決は、再任用の義務や手続及び要件に何ら規定がなくても、教育部長官は人事管理指針を示していること、これまでの再任用に関する実態などを理由に、再任用について、「合理的な基準による公正な審査を受けその基準に適合すれば特別の事情がないかぎり再任用されるとの期待を持って再任用いかんについて合理的な基準による公正な審査を要求すべき法規上又は条理上の申請権をもつものとすべきであり、」「任期満了の通知は・・・処分に該当する」という。これは、法規がなくても、条理上の申請権があるとか、合理的な基準による公正な審査を要求するということで、まさに私見とも一致する。

京都地裁は、再任審査基準が内部基準であり、職務上の基準にすぎないとするが、これはおそらくは、憲法は眼中になく、実定法の条文だけ見るいわゆる制定法準拠主義の発想であり、法治国家の考え方を逆用して、法律が不備な場合には一切救済しないという放置国家に陥っているものである。しかし、法律が不備な場合には、憲法に遡って考えるのが法律解釈学の常道である。そうすると、法律が不備なら、その法律が憲法に適合するように解釈するとか、憲法に適合するようにしないと違憲との解釈(韓国の憲法不合致判決)を行い、行政訴訟の対象となるように、「処分性」を認めるべきことになる。韓国の判例はこのような常識的な法解釈手法をとっているのである。京都地裁の判決は、法解釈の基本を知らないものである。

二  再任基準と救済などを求めた韓国憲法裁判所の違憲判決

旧私立学校法第53条の2第3項、違憲訴願(2003年2月27日、2000憲パ26全員裁判部)

[決定要旨]

ア. 教育は個人の潜在的な能力を開発せしめることによって個人が各生活領域において個性を伸張できるようにし、国民に民主市民の資質を育ませることによって民主主義が円滑に機能するための政治文化の基盤を造成するだけでなく、学問研究等の伝授の場となることによってわが憲法が指向している文化国家を実現するための基本的手段となっている。教育・・・のような重要な機能に照らし、わが憲法第31条は学校教育および生涯教育を含めた教育制度とその運営、教育財政および教員の地位に関する基本的事項を法律で定める(第6項)ことにしている。したがって、立法者が法律で定めるべき教員の地位の基本的事項には教員の身分が不当に剥奪されないようにすべき最少限の保護義務に関する事項が含まれるのである。

イ. (1)この事件法律条項は、任用期間が満了する教員を特別な欠陥がない限り再任用すべきか否かおよび再任用対象から排除する基準や要件およびその事由の事前通知手続に関して何ら指針を設けていないだけでなく、不当な再任用拒否の救済についての手続に関しても何ら規定を設けていない。それ故この事件法律事項は、停年までの身分保障による大学教員の無事安逸を打破し研究の雰囲気を高揚するとともに大学教育の質も向上させるという期間任用制本来の立法目的から外れ、私学財団に批判的な教員を排除すること、その他任免権者個人の主観的目的のため悪用される危険性がかなり存在する。第1に、再任用いかんに関する決定は人事に関する重要事項であるため教員人事委員会の審議を受けるべきであるが、その審議を経ない場合や形式的な手続だけを経る場合が多く、はなはだしくは教育人事委員会においては再任用同意があったにもかかわらず特別な理由もなしに最終任免権者によって再任用が拒否されもした。第2に、この事件法律事項が再任用の拒否事由および救済手続について何ら言及していないため、私立大学の定款が教員の研究業績、教授能力のような比較的客観的な基準を再任用拒否として定めず恣意的に介入できる漠然とした基準によって再任用を拒否する場合には被害教員を実質的に救済できる対策がない。第3に、絶対的で統制されない自由裁量は濫用を呼び寄せるということは人類歴史の経験であるという点でみるとき、恣意的な再任用拒否から大学教員を保護することができるように救済手段を備えることは、国家の最小限の保護義務に該当する。すなわち、任免権者が大学教員をなぜ再任用しようとしないのかという理由を明らかにし、その理由について当該教員が解明すべき機会を与えることは適正手続の最小限の要請である。第4に、再任用審査の過程における任免権者による恣意的な評価を排除するため客観的な基準で定められた再任用拒否事由と、再任用から除外されることになった教員に自己の立場を陳述し評価結果に異議を提出できる機会を与えることは、任免権者にとって過度な負担にはならず、ひいては再任用が拒否される場合にこの違法いかんを争うことできる救済手段を設けることは、大学教員に対する期間任用制を通じて追求しようとする立法目的を達成するにあたっても何ら障害にならないというべきである。

(2) 以上見たように、客観的な基準で定められた再任用拒否事由と再任用から除外された教員が自己の立場を陳述できる機会、そして再任用拒否を事前に通知する規定等がなく、ひいては再任用が拒否された場合、事後にそれに対して争うことができる制度的装置を全然設けていないこの事件法律条項は、・・・大学教員の身分の不当な剥奪に対する最小限の保護要請に照らしてみるとき、憲法第31条第6項において定められている教員地位法定主義に違反する。

(3)この事件法律条項の違憲性は上に見たように、期間任用制それ自体にあるのではなく再任用拒否事由およびその事前救済手続、そして不当な再任用拒否に対して争うことができる事後の救済手続に関して何ら規定をしないことによって再任用を拒否された教員が救済を受けることができる途を完全に遮断したところにある。ところが、この事件法律条項に対して単純違憲と宣言する結果をもたらすために、単純違憲決定に代り違憲不合致決定をするのである。立法者はできる限り早早期に、この事件法律条項所定の期間任用制により任用されてその任用期間が満了した大学教員が再任用を拒否された場合に事前手続およびそれに対して争うことができる救済手続規定を設けこの事件法律条項の違憲的状態を除去すべきである。

三 違憲判決後の再任ルールの設定

韓国憲法裁判所が指摘した問題は、審査基準、事前手続、行政救済の必要である。そこで、大統領令が改正され、昨年学則が改正された。これは大要次のようである。

教育公務員法第11条の2は、契約制任用を大統領令で定めることができると定めた(1999年1月29日、本条新設)。これを受けて、教育公務員任用令(大統領令第4303号)第5条の2[大学教員の契約制任用等]第1項は、副教授以下の任期制を定めた(この細目は第5章注(13)参照)。任期は、専任講師2年、助教授4年、副教授6年(中には定年まで身分保障のある副教授もいる)、教授(任期なし)の範囲内で契約で決める。

ここでは、給与、勤務条件、業績および成果、再契約条件および手続、その他大学の長が必要と認める事項を定めることとなっている。そして、大学の長は大学人事委員会の審議を経て第1項の規定による契約条件に関する細部的な基準を定める(2001年12月31日、本条改正)となった。これは私立学校でもほぼ同様である。

再任審査は、任命権者(大学の総長、学長)が教育人事委員会の審議を経て行う(1999年8月31日、本項新設)。この人事委員会はソウル大学の学則によれば、3人(なお、新規採用では5人)の審査委員を選出する。

ここで、早大法学部助手李斗領氏が朴正勲副教授から入手して翻訳したソウル大学と法学部の規定によれば、再任審査における評価の基準は、研究実績、教育実績、奉仕実績(学内、学外)、教育関係法令遵守及び教授の品位として、それぞれ一定の割合が定められている。それは学部毎に定めるが、ソウル大学法学部の場合には、それぞれ40%、40%、10%、10%である。このほかに、受賞等を特別考慮事項として5点を加算することがある。研究実績については、助教授(任用期間4年)に必要な論文数は2点であり、副教授の再任(任用期間6年)の際には3点を満たさなければならない。論文には、秀(5)、優(4)、美(3)、良(2)、可(1)の評点がつけられ、教育実績は、修士・博士の輩出実績(修士1人13点、博士1人15点等)と学生からの講義評価により数字で示される。人格はセクハラなど重大なものを意味し、阿部はというと、大丈夫と一笑に付された。このように機械的に計算し、70%以上を満たせば、各学部人事委員会から学長に再任の推薦がなされる。

これはそれなりに客観的な判定が行われるしくみである。こうして初めて合憲であろう。無記名投票で、新規採用と同じような審査が行なわれた京大再生研とは大違いである。

tjst |5月23日 |URL:http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000600.html |任期制の諸問題
Comments