2004年03月07日

今年のセンター入試に関するネット世論

独立行政法人大学入試センターへの政治的圧力が強まっている。Google で「センター試験、強制連行」で検索すると、657件。産経新聞や「つくる会」の主張を鵜呑みにする意見で溢れているが、他の視点からの意見も見つかる。たとえば

・「新右翼」鈴木邦雄氏サイトより「今週の主張・2004年2月2日今年のセンター試験は「反日」的か?」

教科書研究所サイトのコメント 2004.2.18

・東京大学史料編纂所有志声明 2004.3.5 「大学入試センター試験問題作成者公表方針「決定」について」

抜粋:

「新右翼」鈴木邦雄氏サイトより「今週の主張・2004年2月2日今年のセンター試験は「反日」的か?」

・・・・・藤岡氏は、これは、正解ではないのだから採点から外せ、という。しかし、今見てきたように、論理的に考えて、(1)〜(3)は間違いだと分かり、不十分ながら(4)にした人を、外すのは不公平ではないか、と僕は思う。(1)や(2)や(3)に丸をつけた人と、苦慮しながらも、「(4)しかない」と考えた人を同じにするのはおかしいだろう。
 でも藤岡氏は、それこそ受験生に「踏み絵」を踏ますものだという。そんな大袈裟な問題じゃないだろうと思うが。・・・・・現代文にしても、「完全に正しい」のはなくて、他が、「絶対的に間違っている」から、これをとるしかない、という設問はある。いくらでもある。だったら、これも、(4)をとるしかない。「第二次世界大戦」にやられたのは事実だ。その前にもあったかもしれない。その点で、「不十分」かもしれないし、用語も厳密ではないかもしれない。しかし、「100%間違い」とはならない。その点、(1)は「初代総督」、(2)は「初めて獲得」、(3)は「併合と同時に」が、歴史的にみて、「100%間違い」だ。つまり、歴史の設問だから、そうすると(4)をとるしかない。そう考えた人を、採点から外したら、悪平等ではないのか、と僕は思う。


教科書研究所サイトのコメント 2004.2.18

産経新聞は、・・・・・日韓条約以前の古い外務省文書を引っ張り出しては、「昭和三十四年に外務省が在日朝鮮人の実態について発表した調査結果では国民徴用令による戦争徴用者はごく少数に過ぎず、大半が自ら日本国内に職を求めてきた渡航者らや鉱工業や土木事業の募集に応じて自主的に契約した人たちで占められている」(1/21)などと報じました。・・・・・「強制連行」の研究は、日韓条約以前の上記のような外務省の考え方を批判して成立、発展してきたもので、十分な資料開示を日本政府が行ってこない中、研究者の努力により学問的な領域として定着したものです。「強制連行」という用語も、その中で確立してきました。当時、その言葉がなかったからといって歴史用語に使ってはならないということでなく、むしろ歴史の渦中にあって当時使われなかった言葉が、後に歴史用語として一般に定着し、使われるのは当たり前のことです。一例を挙げれば「明治維新」という言葉さえ事後に作られたものです。当時はむしろ「御一新」と呼ぶのが一般的で、江戸城明け渡しの後、ようやく「維新」という言葉が少し出始め、「明治」の語がそこに冠せられるのは、はるか後のことになります。しかし今は、「つくる会」の歴史教科書さえ「明治維新」の語を使っています。そうしたものが歴史における用語なのです
ついでに誤解を訂正しておきますと、いくつかの高校教科書が「強制連行」の語を使っていないのは事実です。ところが、「つくる会」の主張する「41%」とは、教科書の点数(種類)の比率であり、実際に使われている冊数の割合(占有率)は、「強制連行」としているものが93.1%にも達しています。山川出版をはじめ、東京書籍、三省堂、帝国書院なども使用していて、これが研究上の趨勢を反映したものであることを知るべきでしょう。


最後に歴史研究者の意見。東京大学史料編纂所有志声明 2004.3.5 「大学入試センター試験問題作成者公表方針「決定」について」

「新聞報道やインターネット上で配信されるニュースが伝えるところによれば、本年1月17日に実施された大学入試センター試験の「世界史」(A・B共通問題)で朝鮮人の「強制連行」が正解選択肢であったことをめぐって、次のような事態が起きています。
・この試験問題について、1月23日に「新しい歴史教科書をつくる会」が、文部科学省に対して、「強制連行」の設問を採点から除外するよう求める要望書を提出した。
・2月26日に文部科学省は、大学入試センター試験の問題作成者について、今後(新規に委嘱される委員が関与する問題が役割を終える2007年以降)氏名を公表する方針を決めた。
・2月27日付共同通信配信記事によれば、実際は「自民党議員グループが反発し、公表を要求。文科省がこの日、公表方針を同グループに伝えた。」であるが、「文科省は方針転換の理由を『センターの業務運営の透明性を高めるため』などとしている。」という。
・「新しい歴史教科書を作る会」のホームページによれば、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が、2月13日と2 6日の「総会」に文部省高等教育局の学生課長と大
学入試センター副所長を呼んで「問題作成者名を公開せよ」と迫り、文科省側が公開を「確約」したとも言われている。

もしこのようなことが事実であるならば、歴史の研究と教育に携わる者として、私たちは重大な危惧をいだかずにはいられません。

まず疑問なのは、なぜ出題内容上の疑義が氏名公表要求や文科省の担当者を呼ぶことに結び付くのでしょうか。もし内容について意見や疑問があるならば、入試センターの問合せ窓口を通して行うのが本来のルールであり、問題作成者の氏名公表を求めることは議論のすり替えです。また、「議員有志」でしかない「若手議員の会」が、文科省・入試センターの関係者に「確約」を要求するというのも、政権政党の議員であることを利用した圧力もしくは恫喝だと言わなければなりません。

入学試験問題という特性上、問題作成者名の公開やその手法については、機密性や中立性・公正性の保持などの観点から慎重に検討されるべきです。とくに客観的事実が重視される歴史の分野では、外部圧力によって出題内容が左右されるようではいけません。今回の文科省・センターの「約束」が事実であるとすれば、こうした問題点を考慮しないままに、一部政治集団の圧力に屈する形になるのではないでしょうか。現に今回のような政治的圧力が存在する状況下で問題作成者名を公表するならば、出題内容に対する中立性・公平性を本当に保つことができなくなる恐れがあります。もし文科省や入試センターが、そうした検討を欠いたまま「方針転換」を決めたとすれば、教育や入試に関する行政の任にある者として、自ら責任を放棄するに等しい無責任な対応・行動であると言わざるを得ません。

「つくる会」・「若手議員の会」は、戦時下に行われたのは「国民徴用令」に基づく合法的な徴用であり、強制連行は無かったと主張しています。しかしそれは、当時の歴史状況や学界の研究蓄積を無視した議論であると言わなければなりません。国民徴用令は、通常のやり方では労働者が集まらないので、国民を強制的に徴発することができるという勅令であり、また徴用令の存在が、実際に強制連行が存在しなかったことと同義でないことも明らかです。割り当てられた人数を確保するために朝鮮半島で行われたことや、鉱山等における労働実態については、これ までの研究が明らかにしています。

もし伝えられるような「方針転換」が事実であるとすれば、私たちは次のような危惧をいだかざるを得ません。

第一には、特定集団の政治的圧力によって、大学の入試に関わる重要な方針の「転換」が決められていることです。入試問題についての情報公開を進めようとするのであれば、メリット・デメリットや公開の手法について慎重な検討を行なう必要があります。

第二に、「つくる会」・「若手議員の会」も文科省・入試センターも、これまでの歴史学の研究成果を全く無視していることです。

第三に、今回のような形で問題作成者名が公開されることになれば、問題作成者個人に対してさまざまな攻撃がかかる恐れがあります。その場合、入試センター試験の質にも影響が及びかねませんし、戦前・戦中において国家が研究・教育に対して過度に干渉した事への反省から生まれ、憲法や教育基本法に盛り込まれた「学問の自由」の破壊にもつながります。

この認識に立った上で、私たちは、文科省と大学入試センターに対して、「氏名公表」「方針転換」と伝えられたことに関して、事実関係を明らかにするよう求めるものです。あわせて、報道機関各社もおいても、この件に関する事実関係究明に積極的に取り組んでいただくよう要請します。

            2003年3月5日
             東京大学史料編纂所教員有志(23名)


                  
tjst |3月07日 |URL:http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000554.html |不当な介入
Comments

松家 仁氏「センター試験世界史問題に関する私見」

Posted by: tjst at 2004年03月13日 15:39

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