2004年02月01日

5000名の仏科学者が辞任決意表明:政府へ抗議して

2004.1.13 に、フランスの5000名の科学者が政府の改革案に抗議して辞任表明をしたと報じられたが、その声明文の邦訳が「意見広告の会」ニュースNo 91(2004.2.1) に掲載された。「署名者全員は下記の分析に賛同し、極めて深刻な状況について政府に注意を促したいと考える。政府側の迅速かつ十分な回答が得られない場合には、管理ポストに就く署名者たちはそのポストを辞任することを誓う」とある。
全文:

Date: Sun, 01 Feb 2004 12:25:35 +0900
「意見広告の会」ニュース91: 2.フランスの状況 日本語訳
研究を救おう! フランス政府への公開書簡 2004年1月7日
*先頃のニュース原文に関してパリ在住の研究者よりいただいた翻訳です。
この書簡は研究ポストに就いていない研究者を含めて、その研究所の所属機関が何であれ、研究に携わる人々によって署名されたものである。署名者全員は下記の分析に賛同し、極めて深刻な状況について政府に注意を促したいと考える。政府側の迅速かつ十分な回答が得られない場合には、管理ポストに就く署名者たちはそのポストを辞任することを誓う(本文結尾を参照)。

21世紀の幕が開けた今、フランスは精力的な研究を必要としている。こうした研究活動は明日の技術革新、我が国の経済発展と文化の普及にとって必要不可欠である。現状では、優れた研究手段を保持しない国々は、知識の再生産に結びついた、ますます拍車のかかる経済の変化についていくことはできないだろう。さらに深刻なことに、そうした国々では、競争力のある若い世代を育成することがたちまちできなくなるだろう。そうして、取り返すことが難しい経済的な従属状態に陥っていくのである。

社会のために優先されるいくつかの路線に研究を限定することができるなどと考えることは、発展途上国の論理に賛同することに等しい。実用的で収益性がある効果は応用研究からもたらされるし、これからもそうだろう。しかし、応用研究は新しい器具を利用し、基礎研究によって考案された諸概念を活用することで初めて価値をもちうるものである。基礎研究の目的が先読みされたいかなる収益性にも左右されない知識の発展である以上、それは本質的に公的融資によって支援されるしかないのだ。こうした国家の主要な責任は慈善活動機関や民間の機関、あるいは国際的な構造へと譲り渡すことはできない。たとえ研究者がスポンサーから高額の補助金を得ることができる場合でもしてはならないのである。

フランスにおいて、国家による基礎研究の放棄が確認される。こうした政策によって引き続き、取り返しのつかない形でありとあらゆる応用研究の崩壊が生じるだろう。既に民間の研究センター(アヴェンティス、ファイザー)の閉鎖という実例がある。彼らは基礎研究と応用研究の結びつきが堅持されているアメリカで活動することを選好しているのだ。というのも、繰り返しになるが、アメリカの民間企業の圧倒的多数は政府の公共部門に依存しているからである。大まかに言って、健康衛生の分野では、大手製薬企業は学問の世界から生まれた研究の第一歩をこれが成功を収めた場合に買収することを専門としていて、それはまさに金融会社へと変貌している。しかし、民間の製薬研究がもはや実施されていないということ、これはヨーロッパの実情でもある。アメリカの代議士たちは自分の政治的帰属とは無関係に、クリントン政府が提案した国立衛生研究所(NIH)予算の度重なる著増に賛成票を投じたが、それは、生物学者たちがこうした大義のために製薬企業を賛同させ、できる限り革新的な研究を利用可能とするために連邦資金を学問研究に注ぎ込むよう政府を上手く説得したからだった。

研究は国家の優先事項であるという公式見解にもかかわらず、政府は現実には公的な研究部門を閉鎖しつつある。しかも、公的な研究の代わりを果たすものは何もないということが考慮されないままである。政府は公的な研究機関を財政面で停滞させている。予算の削減にともなって、議会で採択された予算の取り消しや凍結(2003年12月初め、国立科学研究センター(CNRS)では2002年度官費予算の50%がなおも支給されていなかった!)が生じたが、これは、(CNRSや国立保健医学研究機構(INSERM)、国立農業研究所(INRA)といった)科学技術的公施設法人(EPST)のいくつかや、(原子力庁(CE A)といった)商工業的公施設法人(EPIC)を破綻の瀬戸際へと追いやっている。長期的な活動であるがゆえに研究には明確なパースペクティヴが必要なのだが、政府は若い研究者のポスト数の容赦ない削減を決定した(例えば、INSERMの研究員ポストに関して言えば、2002年に95あったポストは2004年には35と見積もられている)。フランスの研究職員の相当な数の退職と軌を一にして、この放棄によって、フランスと同水準にある他の国々との隔たりはにわかに後戻りのできない地点に達するだろう。若い科学者たちがこの国を去っていくにつれてその速度はますます速くなるが、既にそうした動きは始まっているのである。

科学行政の重要な方針は国民の代表によって統制されなければならない。しかし、政府は国家を解放することも、研究を麻痺させかねないような方法でもって研究を先導することもできない。こうして、干渉手段は徐々に内閣へと集約されてきた。公的資金の分配には、彼らの干渉能力のにわか仕立てで一貫性に欠ける煩雑な手続きが既に駆使されているが、その最も明白な論理とは(大学を含む)EPSTとEPICを民営化するというものだ。特別プログラムへの高額予算の分配を決定するためにその場しのぎの委員会がいくつか緊急につくられ、支援するべき若手研究者を選出する担当者として何人かの専門家が慌しく任命される。研究を先導する最良の効率性の名のもとに打ち出されたこれらの実践処置だが、その効果は、往々にして不透明な評価基準をもった、一定期限の委員会の数を増やすこと、そうして、EPSTとEPICの研究所を統率するために多くのエネルギーを注ぎこむことである。なぜなら、皮肉なことに、科学の専門家は権威ある専門家たちがいる研究所、つまりEPSTとEPICからしか生まれないからである。なるほど、政府の先導行為は極めて重要な施設、あるいは社会科学における人類学館のような特殊な機構を設置し、さらには研究を応用発展させるためには必要である。しかし、それは、この先導行為が研究機関との協議にもとづいて透明なやり方で実施され、有無を言わせない方針の変化や即席の方針を回避するならばの話である。またそれが、学術としての卓越性を唯一の判断基準としながら、ありとあらゆる基礎研究への隙のない支援を伴なっていればの話である。

もっぱら内閣によって推進され、先導されるような科学研究の例は存在しない。さまざまに立場を異にする多くの政治家がそう考えているようにみうけられるが、こうした類の発想法を信じることは御門違いの話、科学官僚的な幻想に他ならない。そんな肩書に値する研究は、科学の国際的な情勢に対抗しうるほど勢力のあるいくつかの研究機関や大学に限られるのである。研究諸機関の構造と実践を明晰に分析する必要はあるし、署名者の多くが長年来考えてきたように、数々の変化は必要不可欠である。だがそうだとしても、この上なく毅然たる態度で言っておかなければならない、若手を育成するための実践科学やかけがえのない専門能力、急速な知の進化発展に対する返答、さまざまな結果の価値評価、これらはすべて、他ならぬ研究諸機関のなかにあるのだ、と。

ここに署名した科学者たちは自分たちの責任上、フランスの研究機関の計画的な破壊に対して集団で訴えを起こす所存である。したがって、

1)諸機関に支払われるべき予算総額(2002年度の交付金は未だに未払いである)が直ちに払い込まれなければならないことを私たちは要求する。
2)2004年度の選抜試験を受ける若い研究者に就職の可能性が目に見える形で増えることを私たちは要求する。
3)現状が政界や経済界、さらには世論に理解されるために、研究に携わる人々が現実的に決定的な行動を起こすことを私たちは期待する。研究に関する国民会議の準備に速やかに着手するよう私たちは研究省に要求する。六十年代、カーン〔フランス・ノルマンディー地方の都市〕の討論会はフランスにおける研究の目覚しい革新の礎をなしたが、この討論会は研究に関する国民会議の範例となるだろう。この種の討論会は経済界や政界の関係者たちを一堂に集めることで、私たちの研究システムがもっている活力と再活性化を条件づけるいかなる問題をも避けることなく、我が国で暮らす市民の未来のために生命活動の部門――これは今日、多くの若手が顧みない部門である――を再び設立することを目指すだろう。若い研究者に魅力的な就職と職歴の見通しを提供する一年以上にわたる政策の実施という結論が導かれることだろう。

当局が状況の深刻さ、とりわけ我が国の若い研究者たちの絶望――これは私たちの研究所の主たる問題となる――を理解しないならば、そして、私たちが被っている危機の処置が一刻を争うにもかからわずこれらの要求が満たされないならば、ここに署名した研究チームと部局のリーダーはその管理ポストを集団で辞任するだろう。

署名者たちはこうした決断が引き起こす深刻さを自覚している。しかし、若手研究者の保護を心配する私たちには、政府当局、経済界の重要人物、世論に理解されるために、こうした手段に訴えるしかないのである。

下記署名者たちは、CNRSやINSERMの委員会のメンバーとその委員長、他のEPSTやEPIC で研究する人々、若手研究者グループ、各学会長に、それぞれの分野でそれぞれの責任に応じた形で、フランスにおける研究機関の解体に対する反対運動に参加するよう呼びかける。私たちは政府の措置に影響を被り、その深刻さを学生――彼らは私たちがこの運動の拡大を望んでいることを明確に理解するだろう――に説明する可能性のある教員や研究者にも呼びかける。

(翻訳:西山雄二:一橋大学博士課程)。


(「意見広告の会」ニュース講読申込先:qahoujin@magellan.c.u-tokyo.ac.jp)

tjst |2月01日 |URL:http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000497.html |研究者から社会へ
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