2003年12月18日

国立大学の独法化を煽ったジャーナリズム

早稲田大学広報誌『月刊Campus Now』2003年10月号
Trend Eye 国立大学法人とジャーナリスト

・・・・・・ところが他紙の記者の原稿も似たりよったりの書き方なのである。毎日新聞は「記者ノート」で「国立大教員よ、甘えるな」と叱った。読売新聞の記者は高等教育研究誌「IDE現代の高等教育」で、「国立大学法人の課題-望まれる意識改革」とこれも大学人に強く反省を迫った。

 最初はびっくりした。これでジャーナリズムかと眉につばをつけたくなった。それにしてもいい度胸だとも思った。たとえばノーベル賞受賞者の小柴東大名誉教授も研究への影響を慮って国立大学法人化に反対の意見を述べた。佐和隆光京大経済研究所教授は「かつてのソビエト連邦の経済運営を思い出させるような」文部科学省による大学管理になるのではないかと国会に出て意見陳述をしていた。同じ趣旨のことは、朝日新聞にも寄稿している。法案の国会審議が大詰めに近づいて来たころになって、急に大学人の反対論が高まるのは遅すぎたきらいはあるが、ともかく「社会の公器」と自称する新聞なら、そうした点にも配慮するのが普通だろう。・・・・・・

関連ログ(2003.7.24):行政を代弁して憚らない記者達


国立大学法人とジャーナリスト

最初に熱くなる新聞記者

 劇団四季の創立50周年記念公演で「ミュージカル李香蘭」を見た。浅利慶太氏が演出した、歴史と運命に翻弄された美女の物語が、日本と中国の関係をあそこまでリアルに描き、戦争を起こした事実と責任を問いかけていたとは知らなかった。

 満州の建国や国際連盟の脱退など、侵略の節目になると、軍人が舞台を駆け回る。その前を、かならず新聞記者らしい服装の二人の男が露払いのように現れ、あの時代に流行った、思い上がった言葉を叫ぶのである。その後で「新聞はいつも最初に熱くなる」という趣旨の強烈なナレーションがつく。

 満州建国も国際連盟の脱退も「断固やれやれ」と煽った新聞への強烈な批判である。思わず我が身を振り返った。大げさだよといわれそうだが、似たことがまったくないわけではないような気がしてくる。どの新聞も同じ事を言い出したらどうなるか。それも役所のいうことと同じだとしたら。

 国立大学の独立行政法人化をめぐる報道がそれに近い。研究者がやるような精緻な調査をしたわけではないが、独立行政法人化にはほとんどのマスメディアが早くから賛成していた。

 足並み揃った「大学人の責任」

 国立大学法人法が国会で成立したのは7月9日だが、その後で朝日新聞は「自立へ向けて意識改革を-法人化される国立大学」という文部科学省担当記者が書いた解説記事を載せた。法人として国立大学を生かせるか否か。すべては国立大学自身にかかっているという指摘である。この記事はきわめて明快で、その通りだと私も思うが、同時に指摘しなければバランスを欠くと思われる文部科学省の責任についての言及は何もなかった。文部科学省の主張と同じである。同じころ国立大学法人法の立法化に携ってきた杉野剛専門教育課長(現)が専門誌に寄稿した「国立大学法人法の成立の意義と課題」で国立大学のマネジメントの改革こそ最重要なのだと明快に文科省の主張を展開している。

 杉野論文に大枠では賛成だったとしても、ジャーナリストが書く以上、役人とは別の視線や視点が必要なのではないか。

 ところが他紙の記者の原稿も似たりよったりの書き方なのである。毎日新聞は「記者ノート」で「国立大教員よ、甘えるな」と叱った。読売新聞の記者は高等教育研究誌「IDE現代の高等教育」で、「国立大学法人の課題-望まれる意識改革」とこれも大学人に強く反省を迫った。

 最初はびっくりした。これでジャーナリズムかと眉につばをつけたくなった。それにしてもいい度胸だとも思った。たとえばノーベル賞受賞者の小柴東大名誉教授も研究への影響を慮って国立大学法人化に反対の意見を述べた。佐和隆光京大経済研究所教授は「かつてのソビエト連邦の経済運営を思い出させるような」文部科学省による大学管理になるのではないかと国会に出て意見陳述をしていた。同じ趣旨のことは、朝日新聞にも寄稿している。法案の国会審議が大詰めに近づいて来たころになって、急に大学人の反対論が高まるのは遅すぎたきらいはあるが、ともかく「社会の公器」と自称する新聞なら、そうした点にも配慮するのが普通だろう。

 独法化賛成社説の軽率さ

 それが何で文部科学省と同じことを、しかも大新聞といわれる記者たちがそろって同じことを書くのか。しかしよく考えてみると、彼らの書いたことの方が、新聞編集上の論理でいえば理にかなっているのかもしれないと気がついた。

 それは社説である。新聞は国立大学の独立行政法人化に前から賛成なのである。社説で「独法化を国立大学の変身の好機と考えよ」などと、国立大学法人法案ができるずっと以前から書いてきたのだから、法案が成立したときに一線記者が文部科学省の役人の論文まがいのことを書いても不思議ではない。他に書きようがなかったかもしれない。

 新聞がいろんな問題に主張を持つことがいけないとは思わない。しかし国立大学の独法化のようなむずかしい問題について、論議も煮詰まらない前から、大学について知識の浅い論説委員がさっさと「賛成」してしまうとは、軽率としかいいようがない。その結果は、独法化が持っている問題点を抉り出し、追及するという編集局全体の姿勢を鈍らせてしまったのではないか。独法化についてのニュース量が異常なほど少なく、報道機関としての新聞の責任が問われるような状況がなぜ生まれたのかは調べる必要があるが、社説の影響は小さくはないはずだ。

 ただ法案の国会審議中に出た朝日新聞の社説は、文科省の過去の行政責任と法案の欠陥をきちんと指摘し、これからの問題の曖昧さを突き、国立大学に「文科省支配を絶て」と呼びかけていた。独法化に賛成の社説を書いた論説委員と違う記者が書いた社説なのだろう。「賛成」ではない論説委員が示した精一杯の抵抗の文章だと私は読んだ。事なかれ主義の記者なら法案の成立を待って、「大学人の努力を示せ」といった社説を書いておけばすんだものを、狭いスペースの中で法人法の持つ問題点を目一杯並べたてて批判していた。

 「一億一心」の汽車に乗らない、すぐ熱くもならない記者がここに一人いたということか。ただ、それを喜んでいいのか、悲しむべきか。(駿)

tjst |12月18日 |URL:http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000369.html |メディアの情報操作
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