==> 国立大学独立行政法人化に抗して
Date: Tue, 30 Nov 1999 16:07:08 +0900
From: (Yuichi WATANABE)
Subject: [reform:02398] 我が国の 科学技術予算 俯瞰の書
To: reform@ed.niigata-u.ac.jp
各位:
小生の [ref.2384] に対して、辻下さんの方から、もう少し具体的に第一
次五カ年の予算の実施について知りたいという要望がありました。読者全体に
このことはお知らせする意義があるものと思います。
そこで、この一次の期間に立てられた科学技術関係の資料を提供いたします。
ここに示される巨額の投資を見ていると、ときどき独法の論議の中に出てくる
国は金がないし、リストラもやむを得ない等という非科学的盲信は、政策担当
者にせせら笑われると痛感します。とにかく(2)の項目をコピー&ペースト
をしていて、私は腹立たしくなってきました。項目によっては倍々に増えて行
く実状は我々の普通の研究者の現場の予算と余りにかけ離れています。
私の専門は理学ですが、このような国の科学技術に対する予算の使途と、そ
のresults (成果とは単純に言わない)を、どこの誰が評価するのか、もう大
学の一研究者が分析していて済む問題ではないし、実態を把握するのでも容易
でない=本当はこのような事を分析するために、組合は専従などの人が存在し
ているのだろうと思うのですが......。
長い前置きはやめて、疑問に答えることとします。
一言、独法化の話を、あちこちの大学でするときに、財政的に困難になったか
ら国立大を切ると官僚は全く発言していないことを筆者は強調しています。
(下のURLの行革の目的のところで再度確認して下さい)
http://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku/shuchu-bessi2/2.html
何よりも以下の記事が、大変な予算の額を支出する現在の「科学技術立国」
の有様を如実に示しています。
===============
1)各年毎の予算の使い方:
「科学新聞」1998年 9月18日号
政府研究開発投資17兆円
科学技術基本計画に基づく、平成8年度から12年度の5年間に17兆円とする
政府研究開発投資の目標は、残りの2年間で何とかクリアーできる見通しが明らか
になった。
1996 3兆円; 1997 3兆円; 1998 3.6兆円
1999, 2000 年に7.4 兆円を使えば、目標の17兆円を達成
これまでの状況をみると、平成8年度3兆円(当初予算2・8兆円、補正予算
0・2兆円)、9年度(当初予算3兆円)、10年度(当初予算3兆円、補正予算
0・6兆円)で累計9・6兆円となった。あと11年度と12年度の2年間で約
7・4兆円となれば目標に達する。
そのためには、(以下略) ★いかにも使うのが目標という感じ。
---------------------------------------
2)政府の科学技術関係の予算 大枠 実項目(単位億円)
http://www.sta.go.jp/policy/seisaku/81228.html
文 部 省(13,487) 通商産業省 ( 5,081)
科学技術庁( 7,719) 厚生省 (1,017)
農林水産省 (1,091) 防衛庁 (1,465)
郵 政 省 (743) 建設省 (412)
環 境 庁 (233) 運輸省 (229)
外 務 省 (131) 労働省 (44)
大蔵省(23) 警察庁(22) 法務省(21)
日本学術会議 (13) 経済企画庁(11) 国会(9) 国土庁(9 )
自治省(8) 北海道開発庁(2)
***合計 3兆1,5
11 億円
★ 確かに3兆円を超えている
省庁を横断するプロジェクトが増加しつつある。
==========更に具体的な 使い道====
2a)省庁の枠(金額は1997年度の額:毎年計上)
文部省
未来開拓学術研究推進事業 220億円 87件
(96年度は110億円だったから、翌年は2倍に増加している)
科学技術庁
戦略基礎研究推進事業 240億円 60件
厚生省(96年には10億円で出発)
保健医療分野における基礎研究推進事業 240億円 17件
農林水産省(同上 19億)
新技術・新分野創出のための基礎研究推進制度 37億円 20件
通商産業省
新規産業創造型研究開発促進新事業 35 億円 45
郵政省
創造的情報通信技術開発開発推進制度 9 億円 15件
運輸省
運輸分野における基礎研究推進制度 8億円 15件
1996年に未来開拓推進事業が始まった時、この予算を審査する事業委員会
の委員98人のうち34人が助成金を受け取るリーダーになったとする
「予算ぶんどり」行動は、Nature Vol. 383 p.369 '96 にすっぱ抜かれた。
=======================
2b)省庁を横断した項目
〈ライフサイエンス関係〉
1.ゲノム関連研究の推進 265億円
科技庁、文部、厚生、農水、通産省
2.脳科学研究の推進 265億円
科技庁、文部、厚生、農水、通省、郵政省
3.動物・植物・昆虫による有用物質生産技術の研究開発 8億円(★新規)
農水省、通産省
(健康・生活安全関係〉
4.内分泌かく乱化学物質の影響に関する調査研究の推進 71億円
科技庁、環境、厚生、農水、通産、労働、建設省
5.ダイオキシン類に係る調査研究の推進 44億円
環境庁、厚生、農水、通産省
6.疾病対策等健康関連科学技術に係る調査研究の推進 248億円
科技庁、文部、厚生、農水、労働省
7.地震調査研究の推進
8.防災科学技術の推進(地震調査研究を除く) 30億円
北開庁、科技庁、農水、通産、運輸、郵政、労働、建設、自治
9.医療機器・福祉用具開発の推進
38億円、他に60億円の内数
厚生省、通産省
10.地理情報システム(GIS)の整備のための研究開発の推進
20億円 国土庁、通産、郵政、建設省
11.大容量情報の超高速伝送・処理の実現を目指した研究開発の推進
22億円 科技庁、通産省、建設省 (この他、関連研究
として地球シミュレータの開発(科技庁) 55億円
12.21世紀の高度道路交通システム(ITS)実現のための情報通
信システムに関する研究開発 26億円 運輸、郵政、建設
13.公共電気通信システムの共同開発 15億円
文部省、農水省、運輸省、郵政省、自治省
14.次世代超音速機技術の研究開発の推進 66億円 科技庁、通産
〈地球科学・環境関係〉
15.地球変動予測に関する研究開発の推進
16.原油流出による海洋汚染への対応能力の向上 10億円
科技庁、環境庁、運輸省、建設省
17.ライフサイクルアセスメント(LCA)手法の確立 11億円
科技庁、環境庁、農水省、通産省、運輸省、建設省
18.南極地域観測事業の推進 45億円 文部省
19.国際深海掘削計画の推進 37億円 科技庁、文部省
20.成層圏プラットフォームの研究開発 20億円 科技庁、郵政省
21.自律型無人潜水機の研究開発 科技庁、文部省
〈宇宙開発関係〉〈原子力開発利用関係〉 省略
===============
II. よりよい研究環境を整備するための施策における連携の推進
24.特殊法人等による提案公募型の基礎研究推進制度の推進
701億円 科技庁、文部、厚生、農水、通産、運輸、郵政
25.ポストドクター等1万人支援計画
26.研究開発型ベンチャーの創出による研究成果の活用の促進
27.産学官の連携の促進
科学技術振興調整費(科技庁) 302億円
科学研究費補助金(文部省)
(特定領域研究) 82億円
(地域連携推進研究費) 33億円(★新規)
地域研究開発促進拠点支援事業(科技庁) 15億円
大学連携型産業科学技術研究開発制度(通産省)36億円
28.知的基盤の整備
知的基盤整備推進制度(科学技術振興調整費)(科技庁)38億円
知的基盤創成・利用促進研究開発(通産省) 4億円(★ 新 規 )
29.生物遺伝資源等の整備 27億円、他に71億円の内数
科技、環境、文部、厚生、農水、通産
30.地域における科学技術の振興
地域結集型共同研究事業(科技庁) 42億円
科学技術振興調整費(地域先導研究)(科技庁)9億円
地域連携推進研究費(文部省) 33億円(★新規)
提案公募型技術開発研究事業などがこれに含まれるのか=夏に配布された
地域先端技術共同研究開発促進事業(農水省) 4億円
地域コンソーシアム研究開発制度(通産省) 38億円
地域提案型研究開発制度(郵政省) 11億円の内数
31.国の研究開発活動を総覧するディレクトリデータベースの構築・提供
6億円 科技庁、文部省
III. 研究開発の厳正な評価の実施 (金額 非記入)
「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的
指針」(平成9年8月内閣総理大臣決定)に沿って研究開発の評価の効果的
な推進を図る。(関係省庁における評価の実施状況等を9月17日に科学技
術会議政策委員会に報告。)
研究開発の評価を効果的に推進するため、関係省庁連絡会議を開催。
========================
3)研究費全体の考え方、科学技術基本計画(閣議決定)より引用
http://with.mri.co.jp/Sangyougijutsuka/r6-7.html#no2-3
III. 多元的な研究資金の拡充
(a)競争的資金の拡充
研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大するとともに、競争的な研究環境の形成
に貢献する競争的資金の大幅な拡充を図り、これにより、競争的資金が研究資金にお
いて占める比率が高まるよう措置する。このため、平成8年度から本格的に導入され
た特殊法人等を活用した新たな基礎研究推進のための経費、科学研究費補助金、科学
技術振興調整費、民間能力の活用を含めた公募型の研究開発を推進するための経費、
各省庁において国立試験研究機関を選択して配分する共通横断的な分野の研究開発を
推進するための経費等の多様な競争的資金の大幅な拡充を図る。
(b)多様な研究開発の推進のための重点的資金の拡充
研究開発推進の基本的方向に沿って、基礎科学の重点的な推進を図るとともに、社
会的、経済的二一ズに対応して、大学、国立試験研究職関、特殊法人等の研究開発機
関において行われる研究開発や各種研究開発制度により行われる研究開発が効果的か
つ重点的に推進されるようにするため、上記の競争的資金の拡充と併せ、多様な研究
開発の推進のために必要な研究資金の拡充を図る。
(c)基盤的資金の充実
国立大学等や国立試験研究機関における研究者の自主性が重要な基盤的な研究活動
を着実かつ効果的に推進できるよう研究者が経常的に使用できる研究資金及び研究開
発施設・設備の運営に係る経費の充実を図る。
★(c)は付け足し、校費は理系では削減される措置が決まった。
以上。
コメント
そもそも、現実の福祉・医療予算などを削って、科学技術バブルと
言う名に相当する程の巨額の投資(一つは内需拡大、一つは産学協同の
強化)をする行為自体の評価(研究者は、この予算の執行をどうみるか
という評価を正当にし得る人はほとんどいません。あちこちの会合で
私は、現実の保健制度改悪=1割→2割負担、年金制度改悪60→65歳
支給開始、などの生活関係の予算を絞りながら、本当に科学技術を発展
させる方向か疑わしい(科学者、技術者の意見を全くきいていない)
巨額投資の方策を急速に進めることに疑念を呈しているのですが、
反応は薄いものがあります。
我々実験科学者からすると、このような巨額のプロジェクトが、
多数の組織・研究者に対して実施されるよりは、個人のアイデイアで
小規模の予算を使って行われる実験の方が成果は多い事は科学史が
証明しているのです。ノーベル賞をとったほとんどの研究はプロジェクト
などではなく、個人の卓越した発想や、独創的な金のかからない装置など
(手作り的と言って良いかも)から生まれていることは、少し勉強すれば
解ることなのです。
数学の人なら余計この、多人数・多組織・巨額の予算山分けという形式
の進め方が、いかに成果を生みがたい形だけの科学振興対策(官僚が作った
ものでしかない)であるか、お分かりでしょう。
最近、国立大学に対して 納税者に対する accountability という事を
うるさく外部の人が言うようになりました。しかし、最大の納税者に
対する説明は、17兆円/5年という様な予算執行に対して行われなければ
いけないのではないでしょうか。余りに広範囲に予算が使われているから、
責任が拡散している気持ちになってしまいますが、額から言えば、国立学校
特別会計の繰入額の2倍が年間に使われていることになります。
文系の人も、理系の人もまだまだこの big projects+ big budget の
認識が少なく、またそれらに対する批判が少ないと思います。
小生、東京農大に講演に(独法化の話し=今年の5月)言った時に、
国立大全体で、国の予算をいくら繰り入れているか、また科学技術基本計画
に沿って、いくらの予算が使われているかを、講演前に参加者(教員+事務)
に設問したことがあります。何と、20名程度の参加者で、17兆円を答えた
人はたったの1名で、あとは、億単位の答えとか、悲しいことに千万円単位の
答えもあったのです。いかに現実を知らないで暮らしているか驚きです。
更に、あの17兆円は、一般の校費などと関係ないそれ以外の金であること
を知らない人もいて、先日私の部屋にきて、校費などはどこの費目に入るのか
などと質問した人がいます。しかしそれは17兆円には入らない、国の一般
会計からの繰り入れの年間1兆数千億の予算で済んでしまっているものなの
ですから、この点でも学者は暢気なものです。
(中略)
昨日、内橋氏と中坊氏が深夜に(こんな時間にすること自体が問題ですが)
NHKで対談していました。バブルの時に、人間は幸せが何であるかを忘れて
金を沢山得ること自体が目的になってしまった。そして今また競争・効率と
いう単語を金科玉条にして、再び金を得る時代に突入したがっていると話しを
していましたが、まことに研究者としても現在の独立行政法人が競争・効率の
もとに、金が評価でころがりこむ=そしてこの金の入り具合が大学の格を決め
て行くという意味では、共通した問題が指摘されているという思いを強くしま
した。もう一ついうならば、科学者の幸せとは何か「巨額の金を得て研究する
のではなく、いかに財源を最少にしながら知る喜びを得て行くか」にあるので
はないでしょうか。このための最低限の財源は等しく分配していれば(17兆
も不要なことは明らか)後は、研究者の drive force に任せておけば良いこと
なのです。実際にあれほど産学協同の進んでいるアメリカで、大学などの研究
機関に対する産業の方針は「全く自由にさせる」ということだと、Little社と
いうサーチ会社が明確に述べています。
︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿︿
新潟大学 理学部 生物 生体制御学
渡辺 勇一
﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀﹀