国立大学独立行政法人化の諸問題司法改革と法科大学院の諸問題
[he-forum 4636]法科大学院設置法案への批判

大学管理・法曹変質法案を阻止しよう

弁護士 萩尾 健太

2002.10.30

1 法科大学院連携法案について
2 学校教育法改定案について
3 学校教育法改定案と法科大学院連携法案のリンク
4 司法試験法改定案について
5 裁判所法改定案について
6 広範な人々に関わる問題

 先日、大学改革・法曹養成制度改革関連4法案(法科大学院連携法案、学校教育法改
定案、司法試験法改定案、裁判所法改定案)の文面を入手した。私が予想していたもの
を遙かに超えた極めて危険な内容となっており、愕然とした。

以下、その重点を報告し批判する。

1 法科大学院連携法案について

第2条(法曹養成の基本理念)で「法曹の養成は、国の規制の撤廃または緩和の一層の 進展その他の内外の社会経済情勢の変化に伴い、司法の果たすべき役割がより重要なも のとな」ったために、法科大学院を設置して行うと規定されている。 この表現には見覚えがある。司法制度改革推進法1条である。 【法案第1条(目的)】 「この法律は、国の規制の撤廃又は緩和の一層の進展その他の内外の社会経済情勢の 変 化に伴い、司法の果たすべき役割がより重要になることにかんがみ、平成13年6月1 2日に内閣に述べられた司法制度審議会の意見の趣旨にのっとって行われる司法制度の 改革と基盤の整備(以下「司法制度改革」という。)について、その基本的な理念及び 方針、国の責務その他基本となる事項を定めるとともに、司法制度改革推進本部を設置 すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。」  それに対し、我が自由法曹団は、以下のように述べてこの規定の抜本的な転換を要求 する修正意見を出した。 (理由)  司法制度改革は、憲法の保障する国民の基本的人権を擁護するという本来の司法の役 割が、現在の官僚司法制度の下で十分に果たされていないことがその出発点であり、そ れを抜本的に改革し、国民の基本的人権を擁護に資する司法制度へと改革することが目 的である。  司法制度改革審議会設置法における参議院の付帯決議は「国民のより利用しやすい司 法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹一元、法曹の質及び量の拡充等の基本的 施策を調査審議するにあたっては、基本的人権の保障、法の支配という憲法の理念の実 現に留意すること。」としている。また、その審議の際、陣内孝雄法務大臣(当時)も 「司法制度の改革は、単に規制緩和などを推進していくために必要であるという観点か らだけ行われるものではなく、これからの社会において司法制度の利用者としての国民 にとって、身近で利用しやすくわかりやすい司法制度を実現するという観点から検討さ れなければならない。」と答弁している。したがって、司法制度改革は規制緩和に資す るためのものではなく、国民の基本的人権を擁護するためのものであることが、その目 的において明らかにされなければならない。この点で、法案の第1条(目的)が、司法 制度改革を規制緩和路線の一環として位置付けている点は到底容認することはできな い。 この見地からすれば、法科大学院連携法案についても、当然、その2条の規定の転 換、削除を求めなければならない。 法科大学院連系法案4条は、第4条(大学の責務)で以下のように規定する。 「大学は、法曹養成の基本理念に則り、法科大学院における教育の充実に自主的かつ積 極的に努めるものとする」  この規定も、司法制度改革推進法4条とうり二つである。 【法案第4条(日本弁護士連合会の責務)】 日本弁護士連合会は、弁護士の使命及び職務の重要性にかんがみ、第2条に定める基本 理念にのっとって、司法制度改革の実現のため必要な取組みを行うように努めるものす る。 これに対して、我が自由法曹団は、次のように批判している。 【修正案】 法案4条を削除する。 (理由)  日弁連は、在野の弁護士の強制加入団体であり、国民の人権擁護のために自治権を保 障された団体である。したがって、日弁連には行政府の進める施策に拘束されることな く、常に独立した自由な意見表明の権利が保障されていなければならない。よって、日 弁連に対する責務条項を設けることには反対である。  加えて、先に指摘したように、法案の目的には司法制度改革を規制緩和路線の一環と して位置付ける等という重大な問題点がある。仮に日弁連の責務条項を設けるとして も、このような目的や基本理念を前述のように修正することが大前提である。また、日 弁連の責務条項について、審議会の最終意見を所与の前提として無条件にその実現に努 力する責務を課したものとすることは到底許されない。  この批判は、憲法上自治が保障されていることに争いのない大学の場合、一層当ては まるのである。すなわち、  大学は、学術の中心であり、学問の戦争協力の痛苦の反省に立って学問の自由確保の ために自治権を保障された団体である。したがって、大学には行政府の進める施策に拘 束されることなく、常に独立した自由な学問教育研究の権利が保障されていなければな らない。よって、大学に対する責務条項を設けることには反対である。  加えて、先に指摘したように、法曹養成の理念には司法制度改革を規制緩和路線の一 環として位置付ける等という重大な問題点がある。仮に大学の責務条項を設けるとして も、このような基本理念を前述のように修正することが大前提である。また、大学の責 務条項について、推進本部検討会や中教審の意見を所与の前提として無条件にその実現 に努力する責務を課したものとすることは到底許されない。 しかも、司法制度改革推進法と異なり、法科大学院においては、この責務は単なる建 前では無いことが重大である。  第5条(法科大学院の適格認定等)1項で、「法科大学院評価基準の内容が法曹養成 の基本理念を踏まえたものとなるように意を用いなければならない」と規定し、同2項 で、「認証評価機関は、当該法科大学院の教育研究活動の状況が法科大学院評価基準に 適合しているか否かの認定をしなければならない」同3項で「大学は、・・・法科大学 院設置基準に適合している旨の認証評価の認定を受けるよう、その教育研究水準の向上 に努めなければならない」としているのである。  さらに、その驚くべき大学自治破壊の実態は、学校教育法改定案と照らしたとき、一 層明らかとなる。

2 学校教育法改定案について

  同法案15条で新たな規定がなされている。   従来、学校(国立を除く)の法令違反に対しては、変更命令と学校閉鎖命令が規定 されていた。しかし、学校閉鎖命令は、学校にとっていわば死刑であり、(殆ど)発動 されることはなかった。   ところが、改定案15条では、改善勧告、当該勧告にかかる組織の廃止命令が新設 された。なお、「概要」には変更命令も新設、とあるが、変更命令は、もともと学校教 育法14条にあるので、「概要」の説明は、嘘である。改定案60条の2で、上記の権 限行使に当たっては、文科大臣は、「あらかじめ、審議会に諮問し、その意見を聞いて 行わなければならない」と規定しているが、審議会がイチジクの葉の役割しか果たさな いことは明らかである。  これまで、学校閉鎖に該当するような重大な法令違反以外は、大学の自治、学校の自 治で対応してきた。その自治権を奪い、文科大臣が介入するというのが、この法改正で ある。文科大臣の介入が認められるようになると、どうなるか。例えば、東京大学で は、近時、学外団体に教室を使用させる場合、従来の慣例を破って、使用料を取るよう になった。学外団体と言っても、学会やインカレサークルである。こうした動きがさら に進むことになる。また、文部省の規定に違反して学生が自由に設備を使用している学 生会館、自主活動スペース、学生寮などは、組織廃止命令の対象となるだろう。駒場寮 などは、裁判による明け渡しを待つまでもなく、廃止命令に従わなければ強制排除され る。大学と学生自治団体が結んだ設備や授業に関する様々な取り決めは、全て改善勧 告、変更命令の対象となる。教員は、このような状況下で、文部大臣の勧告に怯える相 互監視、管理役人に成り下がる。大学の自治は、強大な文科省の権限の前に風前の灯火 と言える。なお、同条は、国立大学は対象としていないが、国立大学は、独立行政法人 化によってより強い統制に服することになるのである。さらに、文部省の廃止命令を待 つまでもなく、同改定案4条2項で国立大学以外の大学の設置者(地方公共団体、学校 法人)は、学部、大学院の研究科、短大の学科の廃止を届出のみで行えるようになる。 大学の萎縮・大リストラ、解雇問題も生じるだろう。  そして、この動きは教育基本法10条(教育行政)「教育は、不当な支配に服するこ となく、国民全体に対し直接に責任を持って行われるべきものである」との規定の改定 の動きとまさに一体のものと考えられる。  学校教育法69条の3から6にかけて認証評価機関について規定されている。大学は 認証評価機関の評価を受けるものとされて、自主的な研究よりも、表面のよい報告書作 成に忙殺されるようになる。さらに問題なのは、文科大臣が、認証評価機関の認証を行 い、公正かつ的確な実施が確保されないおそれがあるときは報告または資料の提出を求 め、改善を求め、ひいては認証を取り消すことまでできる点である。これは、学問の自 習を尊びアメリカ法曹協会と共同関係にあり政府の介入の余地のないAALS(アメリ カロースクール協会=アメリカのロースクール評価機関)とは全く別物と言える。 中教審答申は、「法科大学院は大学改革の試金石」だと位置づけていた。まさに、法 科大学院を突破口として、このような抜本的な大学管理立法がなされようとしているこ とに、我々弁護士は、自責の念を抱かなければならない。学校教育法の改定は今国会で 同時には行わないとの説もあったが、ここまで露骨にやられるとは、我々が舐められて いるとしか思えない。  しかも、この学校教育法改定は、我々弁護士にも跳ね返ってくる。  仮りに日弁連が認証評価機関を作った場合、このような強大な文科省の統制に服し、 事実上、弁護士自治に対する介入すら招くこととなるだろう。日弁連の認証評価機関で すら、法科大学院連携法案の規制緩和の基本理念(同法2条)に大学の教育が沿ってい るか、を基準に評価することは避けられない。

3 学校教育法改定案と法科大学院連携法案のリンク

さらに、法科大学院連携法案5条5項では、こうした文科省の統制に服する認証評価 機関の適格認定を受けられなかった大学に対して、報告または資料の提出を求めてい る。  検討会議での議論からすれば、この報告または資料が、学校教育法改定案15条の措 置を実施する際の「報告または資料」として使用されることになると思われる。  さらに、法科大学院においては、文科大臣のみならず法務大臣も介入し、15条の措 置を取ることを求めることが出来ることが、法科大学院連携法6条に規定されている。 文科省は、歴史的経緯もあり、少しは教育や大学の自治について理解しているが、法務 省は権力機構そのものであり、6条の規定は、法科大学院がそうした法務省の統制にも 服することを意味しているのである。

4 司法試験法改定案について

司法試験法改定案にも様々な問題があるが、個々で取り上げたいのは、同法案5条、予 備試験の問題である。 従来、予備試験については、法科大学院に入る金銭的余裕のない、貧しい人の登竜門と して保障すべきか、それとも法科大学院制度を脅かさないよう、制限すべきかが、争わ れていた。 しかし、同法案に示された予備試験導入の意図は、そのような争いとは別のところに あったようである。 予備試験の論文試験には、法律実務基礎科目が含まれており、口述試験は法律実務基礎 科目についてのみ行われる。このように重視される法律実務基礎科目とは何か。同法案 5条3項によれば、「法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により習得されるも のを含む)」である。検討会議での議論などからすれば、これは、端的にいえば企業法 務部での経験に他ならない。法務部で働いて給料を得たりなどしていない、貧困学生は 到底予備試験の合格できない。 多様な人材の確保、困窮者救済などと綺麗事をいいながら、自民党や財界が予備試験の 確保を唱えていた真の理由は、企業法務部社員に法科大学院に通う手間を省かせ、短期 に法曹資格を取らせて企業内弁護士や物わかりのよい裁判官にしようというものだった のである。それは法曹全体の変質に結びつくだろう。 このような趣旨の予備試験は、決して認められない。

5 裁判所法改定案について

同法改定案の要点は、現行司法試験で合格した者の修習期間短縮である。現状1年 半ですら、修習生は厳しいスケジュールに追いまくられており、精神を病む者も出る。 まして、1年4ヶ月になれば、十分な修習を受けることは困難である。 また、同法改定案は、他の法案とセットであり、他の法案による法科大学院設置を認め なければ、当然同法案にも反対することになる。

6 広範な人々に関わる問題

上記のように、4法案の問題は法科大学院だけの問題ではない。全ての大学を統制・管 理下におくのが学校教育法改正であり、その中で法科大学院が突出しているのである。 さらには、教育基本法改定にまで結びついている、戦後教育の大改悪の問題として捉え る必要がある。 そうである以上、法律家のみならず、大学教員、職員、院生、学生、受験生、父母、市 民、全ての教育関係者に、この4法案、大学管理・法曹変質法案を阻止すべく共同する ことを呼びかけるべきである。とりわけ、学校教育法改定案反対については、幅広い層 が共同して運動できる可能性は十分にある。教育基本法改悪、、大学改革反対の運動と 結びついて、大学管理・法曹変質法案を阻止しよう。