竹田保正氏から物理学会誌編集委員長への書簡

♯(竹田保正氏の許可を得て転載。なお、送付されたものを若 干編集したものである、というコメントが竹田氏からあった。)
「日本物理学会会誌 編集委員長
秋光 純 様 2002年 5月30日

長谷川 晃氏の物理学会誌5月号に掲載された記事「ビッグサイエンスにかか わる科学者の社会的責任」を読みまして、感じたことを書きます。

 「核融合」など、巨大科学にアンバランスな研究投資をして国立大学の基礎 研究を圧迫し、貧困化せしめてきた文部省、科技庁などの行政サイドと、研究 体制(核融合研究ネットワーク)を構成する重電機メーカーなど産業界と、国 立研究所ー原研、核融合科学研究所、それに主要な国立大学の核融合研究セン ターの三極ネットが、あくまでもITER計画を推進しようとして、官製の 「核融合フォーラム」(もと、京大、基研におられた宇宙物理の佐藤文隆先生 が代表、、)を軸にして、盛んにPR活動を展開しているようです。

つい最近、東京の科学技術未来館でその立ち上げの、一般向け講演会が開かれ ました。 

この辺の経過は、すでにご存知のことと思います。  

現在物理学会の会長である、長岡さんも1998年に学術会議の物研連の中に設け られたITER計画WGのメンバー(たしかヘッド)であったこと、それとご 存知のことと思いますが、今春の物理学会における「物理学者の社会的責任」 分科のシンポジウムで受け取った資料が示すように、この学術会議の物理学研 連と核科学総合研連&核融合専門委員会がまとめた報告書(物理学会誌 vo l.56(2001)50)を読むと、結局、学術会議は非公式ながらITE R計画に一定の理解を示し、それを実施する意味を認めた形になっています。

 「科学技術」行政サイドが、ITER計画推進(サイトを日本に誘致する) のために作った「核融合フォーラム」の議長が、佐藤文隆氏であることは、こ のITER計画検討WGのまとめの根底にある”妥協”と、consiste ntであるかも知れません。現在、学術会議が、総理府にお預けの身で、総合 科学技術会議の一分科会で、今後の組織のあり方、去就を決められる情けない 羽目になっていることとも照応していると思います。

 昨日、新着のプラズマ.核融合学会誌の5月号を開きましたら、巻頭言に宇 都宮大学の方が「日本の核融合研究体制は、これでよいのか」という、かなり 痛烈な批判的意見を述べていました。何日だったか、有馬朗人先生*が、土岐 のNIFSに呼ばれてある集会で講演されたとき、同じようなことを云ってお られたと思います。

*国立大学の「独立行政法人化」に当初は反対しながら、結果的に国立大学協 会が推進の方向に舵をきるようリードし、国立大学人を騙した、ミスリードし たということで、今や評判は大変悪い。それと、驚いたことに、有馬さんは上 記の「核融合フォーラム」の顧問でもある!

 宇都宮大のN氏の言−>「巨大科学でも高エネルギー物理学、素粒子物理学、 宇宙物理学は、人類の知のfrontier、知の創造にたいする夢と希望を 与えてくれるが、「核融合」は、知の創造のイメージがない。今や、「核融合 の実証」ではなく、「重水素の核融合反応によって発電」して見せることが、 重要なのでる、、」 だがこれは、私が上記の岩波のフォーラムに書いた記事 の「、、、海抜8848mのヒマラヤの最高峰エヴェレストより3倍も、4倍も 高い未踏峰(フィクションながら)に挑戦するのと同じ程度の困難性、、、」 があります。

 「核融合反応によって発電する、、」が、このプロジエクト最初からのキャッ チフレーズだったはず。 有馬さんがその時、文部大臣だったか?「あれだけ の国家予算を使って、電球でも灯してくださいよ、、」と云われていたのを思 い出します。(ノーベル賞を受賞された白川さんも、バランスのとれた科学行 政を指向し、基礎科学を重視する立場から、総合科学技術会議のある会議で、 市民として、一科学者として、似たような発言をされている。)

 終わりに、宇都宮大のN氏は、「、、、核融合研究の現状では、中世の錬金 術にもならない、、」と、書いています。

 長谷川 晃氏が今月号の物理学会誌に書かれた記事とか、私が岩波の「科学」 に書いた意見や、ITER計画を納税者である国民の立場から、反対し、批判 する科学者の言論を重ねて、もと学術会議の大御所(それと物理学会の要職も 経験された、、)が主宰されている官製の「核融合フォーラム」にたいし、さ らに厳しい批判の矢を向けること、これが私が去年出版しました「内なる大学 改革ー理系大学人の発言」(学会出版センター)の最後の「まとめ」に書きま した、巨大科学、とりわけ「核融合」にたいして、良識ある科学者がとるべき 態度、行為であると確信いたします。

  従いまして、いくら声が大きい、数が多いから、あるいは政界、財界、官 公庁や、「核融合フォーラム」など、強力な支援団体、「核融合ネットワーク」 がバックにあるからといっても、常軌を逸した政治的、圧制的な言論におされ、 物理学会がこれから大きな政治的問題にならんとしているITER計画をサポー トしているかのような、姿勢、態度を示すことは、厳に慎んでいただきたいと 思います。

 初めに書きましたように、物理学会会長の長岡先生が、学術会議の物理学研 連と核科学総合研連&核融合専門委員会がまとめた報告書(物理学会誌 vo l.56(2001)50)に責任を負っておられること、私の解釈では、結 局この報告書は、「学術会議は非公式ながらITER計画に一定の理解を示し、 それを実施する意味を認めた形になっている」ことから、長谷川さんの記事が 導火線となって、物理学会の内部で相当な激しい議論、論争に発展する可能性 があります。

                        敬具               

追伸:産業界、官公庁、学界をつなぐ研究体制、「核融合研究ネットワーク」 の最近の動態は、かって日大理工、物理におられた科学史家 故広重 徹氏が、 「科学の体制化」として、警鐘を鳴らされた事態を現出するものであります。

日大理工 物理、 竹田 保正