==> 国立大学独立行政法人化の諸問題

NHK「あすを読む: 国立大学が変わる」早川信夫解説委員

(2000年6月14日23時50分〜24時)
To: he-forum
Subject: [he-forum 1026] NHK「あすを読む」06/14
Date: Thu, 15 Jun 2000 03:03:20 +0900 (JST)
From: Hiroaki Ozawa

  国立大学は改革の岐路に立たされています。独立行政法人への移行に向けた
検討がはじまるからです。明治19年に東京帝国大学が設立されて以来114年、
設置形態にまで手を加えようというのは初めてのことです。99の大学の学長が
集まって、今日まで開かれていました国大協(国立大学協会)の総会でも、大き
なテーマとして取り上げられました。今夜は、独立行政法人化によって国立大
学はどう変わるのかを考えたいと思います。

  独立行政法人といいますのは、橋本内閣にはじまる行政改革の論議から出て
きたものです。国の行政機関のうち、現業やサービス部門を経営感覚をもった
法人に衣替えして、運営の効率化とスリム化を図ろうというものです。国立大
学は当初その対象にはなっていませんでしたけれども、およそ13万5千人の教
職員を抱えることから、独立行政法人化すれば国の公務員削減目標が達成しや
すくなるという事情から、対象に含めようという論議が高まりました。しかし
大学関係者や文部省の抵抗もありまして、政府は去年の4月に、この問題は大
学改革の一環として検討し、結論を西暦2003年までに出すと先延ばしすること
にしました。

  これを受けまして検討を続けてきた文部省は、先月末に全国の国立大学の学
長にたいして、独立行政法人への移行を進める考えを正式に伝えました。法人
化されれば国に縛られずに大学が予算の使い道ですとか学科の再編が自由にで
きるメリットを生かして、改革が進むというのがその理由です。

  では、国立大学を独立行政法人化した場合どう変わるのでしょうか。ただち
に私立大学になるわけではありません。まず、大学は自らどういう大学をめざ
すのか、5年間の目標を立てるよう求められます。教育や研究の成果をどれだ
けあげようとするのか、といった目標づくりです。そして5年後にこの目標が
どれだけ達成されているのか、第三者機関によって評価されます。この機関は
教育研究の内容を理解できる専門家によるものでして、一般の独立行政法人の
評価機関とは性格が異なります。この評価にもとづきまして、大学ごとの予算
配分が決まります。あくまでも仮定の話なんですけれども、成果が充分にあがっ
ていないと判断された場合には、最終的には廃止を求められることもありえま
す。

  では、こうした改革案を大学関係者はどう受け止めているのでしょうか。学
長の集まりである国大協は、今日、教育や研究の質を高めるために大学にとっ
てどういう設置形態がふさわしいのか、今後委員会をつくって検討し、政策提
言していくことにしました。

  しかし大学関係者の間には賛否の声が渦巻いています。有力大学を中心に、
国からの財政支出や教職員が確保されるなら、法人化はやむをえないという容
認論が次第に強まっています。その場合、あくまでも大学が金と人を自由に使
え、自律性が確保できることが条件です。文部省が国からの予算は使い道は縛
らず、単年度ではなく繰り越しも可能になると、大学にある程度の自由を認め
るといった点は評価しております。

  反対論には根強いものがあります。地方の国立大学を中心に、評価機関によ
る予算配分によって、有力大学にばかり重点配分されるのではないかと心配す
る声が聞かれます。高い目標を掲げて実行している大学には手厚く、目標が達
成されていない大学には冷たい配分になるだろうと予想されているからなので
す。また、大学に効率化を求めること自体に無理があるという反対意見もあり
ます。5年間で結果を出しにくい学問分野が切り捨てられ、基礎研究の低下を
招きかねないという危惧がその背景にはあります。その一方で独立行政法人化
といういわば外圧を利用して、思い切った改革を進めるべきだという積極的推
進論もありまして、大学関係者の間の議論はさまざまに分かれたままです。

  こうした中で、独立行政法人化の動きをにらんで、大学ごとに改革の動きが
出始めています。中でも注目されますのが、医科大学と、同じ地元にある国立
大学の統合に向けた動きです。このうち山梨医科大学と山梨大学は先月、2年
後の統合をめざして正式に協議をはじめました。教養教育ですとか事務部門を
効率化することで競争力をつけることがねらいです。全国には13の医科系大学
がありますけれども、香川医科大学と香川大学が統合の是非についてそれぞれ
に検討をはじめましたほか、大分や宮崎などでも、検討がはじまっているとい
うことです。これが実現いたしますと、昭和24年に今の大学制度ができて以来、
国立大学としては初めての統合ということになります。これまで増えつづける
一方だった国立大学も、再編の時代に入ったことを印象づける動きです。

  今回、文部省が関係者の根強い抵抗を押し切る形で独立行政法人化の検討を
はじめることで、国立大学が法人化されることはほぼ確実になりました。文部
省では今月中にも調査検討会議を発足させまして、独立行政法人への移行に向
けた具体的な課題について検討することにしています。これによりまして、大
学の教育や研究を国際的なレベルに引き上げることを考えるのは当然のことで
すけれども、それ以外に検討すべき点を指摘しておきたいと思います。

  まず大学が法人化した場合、学生や国民にとって実感としてどう変わるのか、
わかりやすく説明する必要があります。たとえば学費にどうはねかえるのか、
学生が大学から受けるサービスに変化が出てくるのか、といったことです。な
によりも学生や親に新たな負担を強いることのないようにしてほしいと思いま
す。たとえ大学ごとに予算配分に差がつけられましても、安易に授業料や入学
金に上乗せしないように、歯止めを求めたいと思います。むしろ経営努力した
結果としまして、他の大学より安くして入学しやすくするといった思い切った
措置をする大学があるなら歓迎です。

  またサービスの面では、たとえば学生にたいして、何を学んだらよいのか相
談にのる体制を整えたり、カウンセリング体制を充実させることなどが考えら
れます。一方国民に向けましては、公開講座を増やすことですとか、図書館な
どの施設の開放、研究成果を誰でも利用できるような、開かれた大学に変わる
必要があります。

  この関連でいいますと、事務職員の仕事を事務処理型からサービス提供型へ
転換してほしいと思います。熱意ある職員は大勢いるのを知っていますけれど
も、一体どこを向いて仕事をしているのかといった経験をしたことも少なから
ずあります。学生や教員を充分にサポートする、あるいは時にはリードするぐ
らいに変えていってほしいと思います。

  さらに文部省には大学の自主性、自律性が実質的に確保できるように工夫し
てほしいと思います。この点を明確にすることが、独立行政法人化への根強い
抵抗感、不信感を拭うための方策だと考えます。大学が立てた目標を評価する
ことによって、間接的に国の価値観を押しつけることのないようにしてほしい
と思います。やはり学問の自由は確保されるべきです。

  この一方で大学側は、国の規制が緩和されたら、これまでのように、文部省
の規制があるから改革が進まない、といった言い訳は許されなくなります。こ
のことを肝に銘じて、大学改革に取り組んでほしいと思います。国立大学の独
立行政法人化の問題は、2003年までに結論を出すことになっています。文部省
と大学関係者には、この機会をとらえて独立行政法人という設置形態の問題と
してだけではなくて、大学のあり方そのものについて徹底した議論を求めたい
と思います。未来に知を伝達する責任を果たすためだからです。(了)